「ローザンヌ条約の密約」については、日本でも関心を持っている人が少なくないようだ。
密約とは『有効期限が切れる2023年まで、トルコは自国内にある石油資源の採掘を行わない』というものだが、上記の駄文にも記したように、そもそもローザンヌ条約には有効期限などないそうである。もちろん、「石油資源云々」などという密約もない。
今年の1月5日付けサバー紙、ハサン・バスリ・ヤルチュン氏のコラム記事の表題は「ローザンヌの密約を説き明かす」だった。しかし、中身を読んでみると、最初の文句が「もちろん冗談」で、いきなり肩透かしである。
ヤルチュン氏によれば、密約も何も「条約」そのものが永久に保証されているわけではない。
「条約」は二国間、あるいは多国間の「合意は守られる」という了解に基づいて締結されるが、合意を破った国を国際司法裁判所などに提訴したところで、何の効力もない判決は無意味に等しい。国際条約で唯一の保証となるのは「各国家における条約を継続させる力と意志」だと言うのである。
例えば、1870年の普仏戦争で、フランスは「アルザス・ロレーヌ」をドイツに譲渡したものの、第一次世界大戦でこれを取り戻している。
その第一次世界大戦で敗れたオスマン帝国は「セーヴル条約」を締結したが、アンカラ政府はこれを不服として「救国戦争」を戦い、ローザンヌ条約に至る。
世界の歴史は、反故にされた「条約」と新たに締結される「条約」の繰り返しだとヤルチュン氏は論じているのである。
ところで、石油資源等に関しては、この2023年がトルコにとって大きな飛躍の年になるかもしれない。
黒海の海底で発見された天然ガスは、いよいよ供給が可能になったという。そして、南東部のシュルナク県で大規模な油田が発見されたというニュースがトルコのメディアを賑わせている。
「発見」とは言うけれど、もともとこの辺りに大きな油田があるのは知られていたらしい。それが、1984年以来続いたPKKによるテロ活動で手が付けられない状態になっていた。
今、トルコはPKKの掃討を成し遂げ、ようやく石油の採掘に取り掛かろうとしている。つまり、「力と意志」の問題だったのである。
日本で「ローザンヌ条約の密約」に関心を持っていた人たちの多くは、トルコでも密約でもなく、「石油資源」に注目していたのだと思う。
その石油の採掘が始まれば、トルコはかなり脚光を浴びることになるかもしれない。