8月、書写山に登って西坂を下り、バス停で15分ほど待って、ほぼ定刻通りに到着した神姫バスに乗り込んだが、バスは直ぐ発車しようとしない。
『おやっ?』と思って様子を窺うと、どうやら中年の運転手さんは、後方から走って来る女子高生を待ってあげているらしい。
女子高生もバスの10mぐらい手前まで来て、それが解ったようだ。やれやれと走るのを止めて歩き出した。そうしたら、運転手さんはバスのマイクを使い「最後まで走って!」と叱咤した。
女子高生がもう一走りして後部のドアからバスに乗り込むと、運転手さんは野太い声で「オーケー!」と言い、ドアを閉めた。私は思わず拍手したくなってしまった。なかなか格好良い運転手さんだった。
トルコには、荒っぽい飛ばし方で嫌になる運転手もいたが、走って来る乗客を待ってあげる運転手さんも少なくなかった。規則の扱いが緩く、適用は運転手さん次第という感じじゃなかったかと思う。
イスタンブールに居た頃、酒を強か飲んだ帰りのバスで寝込んでしまい、終点で運転手さんに起こされたことがある。
運転手さんは私が何処で降りなければならなかったのか確認し、「このバスは車庫に戻るから、そこまでは行けないけれど、途中まで送ってあげるよ」と言い、家から歩いて15分ぐらいの所で降ろしてくれた。そこまで和やかに雑談したりして、本当に親切で気さくな運転手さんだった。
それから、トルコではネットで時刻表を検索するのが解り易くて良かった。乗客の中にも、スマホでネットから時刻を調べている人が少なくなかった。デジタル化はトルコの方が遥かに進んでいただろう。
神姫バスはネット検索が解り難くて苦労した。もっとも、活用している乗客も少ないようだから仕方ないのかもしれない。
もう一つ、イスタンブールの市バスには「苦情対応電話」があって、これを活用している人も少なくなかったようだ。
ある日、イスタンブールの我が家の近くの道路が工事で通行止めになり、バスの運行が定刻からかなり遅れたうえ、反対方向へ行くバスが迂回して、私たちが待っている停留所の前をそのまま通過して行った。
その時は、まだ遅れの理由も解っていなかったため、停留所で止まらずに通過したバスに私も驚いたけれど、先刻からイライラした様子でバスの遅れを詰っていた中年男は、すかさずスマホで「苦情対応」に電話した。
そして、バスが通過した状況を説明しながら、運転手の風体も明らかにして、「運転手は眼鏡かけた禿!」と怒鳴ったものだから、停留所で待っている人たちは皆大笑いだった。