メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

「トルコの大統領選挙」果たして結果はどうなるだろう?

2018年7月までトルコ経済の舵取りを任されていたメフメット・シムシェク元副首相が政界へ復帰する可能性は、おそらく無いだろうと思われていた。

しかし、先週になって、エルドアン大統領が「選挙後、シムシェク氏のコーディネーションにより新たな経済担当のスタッフが構成される」などと発言したため、俄然、シムシェク氏の去就が注目されてきた。

大方の予想では、「大統領府のアドバイザー」といった立場に留まるのではないかと言われているが、経済担当相としての入閣も取り沙汰されているらしい。

エルドアン大統領の発言にどういう意図があるのか、政権寄りの識者からは、まだこれといった論評も出ていないようだけれど、反欧米のユーラシア主義者と目されるドウ・ペリンチェク氏が率いるアイドゥンルック紙では、「欧米の圧力に屈してしまった」とエルドアン大統領を激しく非難する声が上がっている。

シムシェク氏は、欧米を中心とするグローバル経済を重視してきたと見做されているからだ。

しかし、最近、顕著になってきたドル離れの傾向や欧米の金融危機をシムシェク氏が、どう捉えているのか解らない。

ひょっとすると、この辺にエルドアン大統領とシムシェク氏を結びつける共通の理解が得られているのかもしれない。

いずれにせよ、何事にも慎重なエルドアン大統領が、ペリンチェク氏の主張するユーラシア主義へ一気に傾いてしまうことはないと思う。

また、選挙後の経済政策について語り始めたのは、エルドアン大統領が勝利を確信したからだとする向きもあるけれど、逆に、選挙の行方に不安を感じているエルドアン大統領が「経済政策の立て直し」を明らかにしなければならなくなったという見方も成り立つだろう。

一方、選挙の行方を占うものとしては、一昨日、左派のDSP(民主左派党)がエルドアン大統領への支持を表明したことも話題になっている。

アクサカル党首は、この選挙を「グローバルなインペリアリズムと伝統的なトルコ国家の対決」と位置づけ、「決選投票へもつれ込むことによる混乱を避けるためにも1回目の投票で決着をつけるべきだ」と述べている。

「グローバルなインペリアリズムとの戦い」という点では、アクサカル氏もペリンチェク氏と変わらないが、どうやらペリンチェク氏ほど過激ではないらしい。

そして、1回目の投票で決着がつくかどうか何とも言えないものの、未だに足並みが揃わない野党6党連合に比べて、エルドアン大統領は一層有利になって来たように思える。

アンケート調査では、6党連合の勝利を予想する結果も出ているけれど、こういったアンケートにはかなり疑わしい所もある。

各リサーチ会社は、対象者に電話をかけて調査するそうだが、対象者を選出するプロセスが非常に難しいという。これは、日本のように、ある程度均質な社会でも難しいとされているのに、多様性に富んだトルコでは、さらに困難を極めてしまうらしい。

調査対象の選出方法によっては、結果に大きな違いが生じるため、エルドアン大統領のAKP(公正発展党)は、いくつものリサーチ会社に調査させて、結果を大きく外した会社にはペナルティを科したりするそうだ。

報道専門局の討論番組には、AKPの信任を得ているというリサーチ会社の代表者も出演し、エルドアン大統領有利の数字を並べているけれど、それが党本部へ伝えている数字と同じかどうかは知る由もないだろう。

だから、私は今まで選挙前のアンケート結果など殆ど詳細に見たこともなかった。今回も同様である。

世論調査と言えば、トルコではラマダンによる断食の実践率なども調査されたりしている。これも調査対象者の絞り込みが難しそうだが、リサーチ会社は工場などに昼の弁当を支給している食品加工会社に問い合わせて調べるという。

約20年前、私がトルコで働いていた邦人企業の本社工場には、食堂が完備されていて調理もそこで行っていたが、イスタンブールの工場は弁当の支給を受けていたため、ラマダンに入ると、従業員は翌日に弁当が必要かどうか、毎日報告しなければならなかった。それによって弁当の支給数が決まるわけだから、リサーチ会社はなかなか巧い所に目をつけたものだと思う。

20年前の当時、イスタンブールの工場で毎日断食を実践する従業員は半数に満たなかった。ところが、保守的なアダパザル県クズルック村の本社工場では、地元の人たちに限れば、ほぼ100%近くが実践していた。こういう地域の差も甚だしいため、トルコの世論調査は難しくなるのだろう。

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