トルコの野党勢力は、6カ月後に迫った大統領選挙でエルドアン氏が敗北すると断言している。しかし、誰が勝利するのかは明らかにされていない。というのも、野党連合の統一候補は未だ決まっていないからだ。
野党連合は、共和人民党(CHP)・良党(İYİ Parti)・民主党(DP)・幸福党(SP)・民主進歩党(DEVA)・未来党(Gelecek Parti)の6党から構成されているものの、共和人民党(CHP)以外の政党の得票数を合わたところで、共和人民党(CHP)の半分にも満たないため、当然、共和人民党(CHP)の党首クルチダルオール氏が統一候補になるのではないかと見られていた。
しかし、以下の「イスタンブール市長に禁固刑の判決」という駄文でもお伝えしたように、良党(İYİ Parti)のアクシェネル党首が、イスタンブール市長イマムオール氏への強い支持を明らかにしたため、今後の展開が注目されている。
統一候補がなかなか決まらない要因としては、6党の政治思想に統一性が見られないことが挙げられている。
アタテュルクが創設した共和人民党(CHP)は政教分離主義的な革新左派の政党だが、他の5党はいずれも右派の政党と言えるだろう。
良党(İYİ Parti)は、現在、エルドアン大統領の公正発展党(AKP)と連立与党を組んでいる民族主義者行動党(MHP)から分派した民族主義的・保守的な政党であり、民主進歩党(DEVA)と未来党(Gelecek Parti)も公正発展党(AKP)から離脱したアリ・ババジャン氏とダヴトオール元首相による保守的な政党。
幸福党(SP)は、イスラム主義の政党と言えるかもしれない。この幸福党(SP)から、エルドアン氏を始めとする改革派が分かれて立ち上げたのが公正発展党(AKP)なのである。
そのため、「6党に共通しているのは反エルドアンだけじゃないのか」と揶揄されたりしている。
一方、最近、様々な局面でエルドアン大統領を支持している祖国党(VATAN Partisi)のドウ・ペリンチェク党首は、大統領選挙への出馬を表明しているものの、反野党連合では、与党と立場を共にしているようだ。
共産主義者のドウ・ペリンチェク氏が率いる祖国党は、もちろん左派の政党である。
このように、与党側と野党側に左派と右派が入り乱れている状況を見れば、「政教分離主義的な左派」「保守的・イスラム的な右派」といった区分けが既に意味を成していないことが解ると思う。
左派とか右派ではない、「グローバル派と民族派の争い」などと言われてもいるけれど、これを親米派に反米派として読み解く識者もいる。
実際、AKP政権は、野党連合を「米国の傀儡」と非難してきた。しかし、クルチダルオール氏が支援を求めて欧米各国を訪問しているように、野党連合は「親米」であることを隠そうともしていない。
トルコの経済は、AKP政権がギュレン教団の影響下にあった2003年~2012年頃までは順調だったが、IMFの債務を完済し、米国との齟齬が生じるようになった2013年以降、急速に悪化してきた。これを踏まえて、クルチダルオール氏は、再びIMFの支援を受けても良いと公言している。(訂正:「良い条件で融資を受ける」と述べただけで、「IMF」とは言ってませんでした。)
おそらく、支持者らの中には、「エルドアンが大人しく米国の言うことを聞いていれば、経済も良くなってEUに加盟できた」と思っている人たちがいるのだろう。
彼らは、もちろん「IMFの頸木」なんてことは意に介していない。EU加盟のために北キプロスと南東部を手放さなければならなくなったとしても一向に構わないようである。
オスマン帝国が東部~南東部の割譲を認めるセーヴル条約に調印した当時、帝都コンスタンティニイエ(イスタンブール)には、これに何の抵抗も感じなかった人たちが少なくなかったらしい。
このセーヴル条約を覆すために救国戦争を導いたのがアタテュルクであれば、現在、アタテュルクの立場にあるのはエルドアン大統領ということになりそうだ。来年の大統領選挙を救国戦争に擬えるエルドアン支持者もいる。