メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

トルコで宗派間の対立は解消されるのか?

トルコでは、イスラムの異端とされるアレヴィー派の人々が断食を行うムハレム月に入ってから、アレヴィー派の礼拝所であるジェムエヴィが立て続けに襲撃されるという事件があった。

犯人らは直ぐに逮捕されたそうだが、背景等は未だ明らかになっていないらしい。

このため、ムハレム月の10日目に当たる8月8日には、エルドアン大統領がアンカラのジェムエヴィを訪れ、アレヴィー派の人々と断食明けの夕食を共にして、これも大きな話題になっている。

宗教がアイデンティティーの重要な拠り所になっているトルコの社会では、政治的に作り出されたクルド民族問題などより、アレヴィー派に対する差別が一層深刻な問題となっていた。

しかし、近年はアレヴィー派とスンニー派カップルが結婚する例も増えているという。襲撃で如何に煽られたとしても、再び対立が生じるようなことはないだろう。

私が20年ほど前に働いていた邦人企業のアダパザル県クズルック村の工場でも、この職場で知り合ったアレヴィー派とスンニー派カップルが結婚している。

日本人の工場長は結婚式に参席して、宗派対立の事実を知り驚いたそうだけれど、工場で働く若いトルコの人たちから得られた印象として「この国も日本と同様、宗教はだんだん薄くなって行くのだろうなあ」と述べていたこともある。

工場長が日本から保守的なクズルック村の工場へ出向して来たのはラマダン月の断食の最中だった。

イスラムやトルコの国情について何の予備知識もなかったので、週末に近くの街へ出て広場で煙草を吸い、周囲の老人たちに詰め寄られて往生したという。

それぐらいだから、トルコの社会を先入観のない白紙の状態で観察することが可能だったのではないかと思う。

しかも、保守的な村の人々、他県から働きに来ていた進歩的なエンジニア等々、様々な人たちと知り合い、共に汗を流して働きながら、その印象を得たのだ。

以下の動画で、ネパールの旅を伝えているユーチューバーのトルコ人青年は、工場長や私がクズルック村で知り合った若い人たちよりもさらに若い世代である。

青年は旅先のネパールでも断食を実践し、断食明けの祝祭にポカラ市内のモスクを訪問するなど、かなり信仰心が高いところを見せている。(*訂正:カトマンズ⇒ポカラ)

祝祭初日の朝には、宿泊している民宿でトルコ料理を作り、同宿している若いトルコ人女性2人にも振る舞いながら(動画の10:52~)、「本当に祝祭の朝みたいになった」などと喜んでいたけれど、やはりユーチューバーである女性たちの方はそれほど信仰がなさそうな雰囲気である。おそらく、断食も実践していなかったのではないだろうか。それでも、青年の料理を喜んで食べながら祝祭を祝っている。

かつては、宗教こそが「政教分離主義」と「イスラム主義」の対立を生む要因になっていると論じる人もいた。

しかし、青年たちの様子を見ていると、今や宗教は信仰の有る無しに拘わらず、人々が集うための要素になっているような気がする。

「薄くなっている」と言って良いのかどうかは解らないが、トルコの若い人たちの間で信仰の有り方が多様化し、宗教が個人の問題となって、以前のような「社会的重要性」は後退したかもしれない。少なくとも若い世代では・・・。

2014年11月に訪れたイスタンブールのジェムエヴィ