メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

イスタンブールで再選挙!

結局、イスタンブールでは、6月23日に再選挙が行われることになってしまった。

 選管が3月31日の選挙を無効としたのは、「各投票箱を管理する委員長は公務員でなければならない」という新規の法律が厳密に守られておらず、31124個の投票箱の内、225個が公務員ではない委員長によって管理されていたからであるという。これには、「自分たちの不手際を理由に掲げるのか」と非難の声が高まっているようだ。

 トルコの選管“YSK(高等選挙委員会)”は、「ヤルグタイ(大審院)」と「ダヌシュタイ(最高行政裁判所)」から選ばれた判事によって構成されているそうだけれど、この決定には、やはり政治的な意向が絡んでいるような気がする。

 エルドアン大統領は、当初「熱い鉄を冷ます・・・」などと発言して、必ずしも再選挙を望んではいないように見えたが、延びに延びたYSKの決定が下される前日ぐらいになって、ようやく再選挙を明確に要求した。

 これに比べると、当初より再選挙を強く主張したMHPバフチェリ党首の態度は首尾一貫していた。YSKの決定に政治的な意向があったとすれば、それはMHPの影響力によるものではなかっただろうか?

昨年、大統領選挙が早期に実施されたのもバフチェリ党首の提議が発端となっていた。以下の件でも、MHPは司法に影響力を及ぼしていたかもしれない。  なんだか、リベラルな識者らが言うように、2016年7月の“クーデター事件”以来、MHPの政治力が非常に強くなっているのではないかと感じられる。

ところで、再選挙の行方はどうなるだろう? AKPの支持者ばかりか、党内からも「イスタンブール敗北の要因」に“MHPとの連合”を上げる声が出ているというのに、これでは殆ど勝ち目がないように思えてしまう。

 欧米では、選挙活動期間がラマダンと重なるのはAKPに有利などという説も出ているらしいが、AKP=イスラム主義という図式はとうの昔に終わっている。

 また、2004年3月26日付けのコラム記事で、アヴニ・オズギュレル氏は、「トルコ共和国が複数政党制に移行した1946年以来この方、選挙民の選択は全く変わっていない。トルコ国民の65%は、右派もしくは宗教色の強い保守政党に票を投じ、35%は政教分離の原則を鮮明に打ち出した政党を支持して来た。」と論じていたけれど、これが通用していたのは、今の40代以上の世代までじゃないかと思う。

イスタンブールの若い世代には、保守的な親の世代とまったく異なる政治意識を持つ人が少なくないと言われている。私と同年配の保守的な友人たちの家族を見ても、そういった例をいくつか上げることができる。

 また、例えばクルドに関わる問題を取り上げてみても、人々の意向は多岐に分かれていて、全ての要望を満たす政党など何処にもなさそうである。分離独立の動きは断固阻止すべきだが、クルド語の解放には賛成という人もいれば、クルド語の解放にも反対という人、クルド語の解放だけでなく分離独立にも賛成という人等々、非常に様々であり、こういった人たちが保守・革新という区別もなく広がっている状況だろう。

 エルドアン大統領とバフチェリ党首も「分離独立の動きは断固阻止」では一致しているものの、クルド語の解放などでは相当に意見が異なっているはずだ。

 しかし、シリアの情勢如何では分離独立の動きが加速する恐れもあり、意見の相違を棚上げして「国難」に対処するため、連合を組んでいるのだと思う。

 そして、シリア国境付近でクルド勢力と対峙している軍も、この連合を後押ししているかもしれないが、選挙の結果に不満があっても介入できる時代ではない。選挙は何としても勝たなければならない・・・。

 トルストイの「戦争と平和」を読むと、ナポレオンの軍が迫ってきた時でも、サンクトペテルブルクの貴族たちはダンスを踊ったりして暢気にやっていたらしい。

 トルコの救国戦争も、アタテュルクら有志軍人に協力したのはアナトリアの農民たちで、イスタンブールの住民は非協力的だったため、立腹したアタテュルクは共和国成立後も1927年までイスタンブールを訪れなかったそうである。

 3月31日の選挙でも、イスタンブールの住民たちは「国難」にそれほど反応してくれなかった。これは再選挙でも余り変わらないような気がする。

 とはいえ、欧米の支援による“分離独立”を認めてしまうと、その禍はトルコだけでなく中東全域に及んでしまうのではないだろうか。欧米をこれ以上、中東に介入させないためにも、トルコは「国難」を乗り越えなければならない。そう願っているけれど、欧米の仕掛ける情報戦や経済戦の圧力に、イスタンブールの人たちは屈してしまうかもしれない。救国戦争の時代と違って、今や農民より都市住民の方が多いというのに・・・。 

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