メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

オジャラン氏のメッセージ・・・

最近の週末は、部屋に籠ったままネットでトルコの新聞記事を拾い読みして、ここに駄文を書いたりするだけで終わってしまう。何だか何処で暮らしているのか解らなくなる。しかし、やはりトルコのニュースは気になって仕方がない。 

先週は、イムラル島の特別な刑務所に収監されているPKKのオジャラン氏が、2015年以来初めて弁護士と面会し、メッセージを伝えたという。弁護士との接見禁止令も解除されたそうだ。 

メッセージは、同志らに対して、トルコ政府に配慮するよう呼びかけたり、HDP女性議員にハンガーストライキを中断するよう求めたりする至極穏当な内容だったらしい。 

これが、YSKによるイスタンブール再選挙の決定と同じ日に発表されたため、『AKP政権がクルド票の奪回に動いた』と分析する識者もいる。再選挙では「国難」を強調せずに、融和的な姿勢を見せるのではないかという説もある。 

一方、クルド人ジャーナリストのムフスィン・クズルカヤ氏は、オジャラン氏の特有な言葉使いに注意すべきだと言う。 

クズルカヤ氏によれば、オジャラン氏が同志らを動かそうとする場合、必ず命令形を使い、「~すべきである」といった表現は用いない。だから、今回も女性議員はハンガーストライキを中断していない。2013年の平和宣言でもPKKは武装解除しなかった。そもそも、オジャラン氏にPKKを武装解除させる意思などなかったと言うのである。 

これとは異なり、PKKが平和宣言による武装解除の呼びかけに応じなかったのは、彼らにオジャラン氏の意見を聞く意思がなかったからだという説も多く見られた。 

いずれにせよ、これではオジャラン氏のメッセージに何も期待できなくなってしまうだろう。 

今でもクルド問題の政治的な解決を求めてやまないリベラルな識者たちは、以前から軍事的な解決を主張していたMHPのバフチェリ党首、そして軍部に同調するようになってしまったエルドアン大統領を厳しく非難している。 

とはいえ、バフチェリ党首のクルド問題に対する姿勢も以前ほど強硬ではなくなった。軍も軍事的な解決ばかりを考えているのではないと思う。エルドアン大統領はもちろん政治的な解決も模索しているに違いない。様々なことが同時に進行しているような気もする。 

クルド和平プロセスの再開を望んでいる識者の中には、報道への締め付けも厳しくなったという現在の状況を、故オザル大統領以前、あるいはタンス・チルレル首相の時代に擬える人もいるけれど、これは余りにも極端な論じ方ではないかと思う。 

クルド和平プロセスは、PKKが武装解除に応じなかった時点(2013年)で既に失敗に終わっていたという国家主義的な人たちの主張は、あながち間違っていない。それでもクルド語の放送が開始され、大統領がクルド語のメッセージを発信するようになったのは和平プロセスの成果だろう。 

また、アメリカに「トルコの分割」あるいは「従属化」を望む勢力があったのは事実じゃないだろうか。さもなければ、ギュレン教団を支援して、そのメンバーを軍や司法に入り込ませる必要などなかったはずだ。そして、おそらくこの勢力はなくなっていない・・・。 

元軍人のジャーナリスト、エロル・ミュテルジムレル氏によれば、ギュレン教団のメンバーは80年代より軍の内部へ、当初は“染み込む”などというものではなく、アメリカの圧力により公然と受け入れられたそうである。一部の軍高官は、受け入れても再教育すれば害はないと考えていたらしい。(本当だろうか?)  

それが次から次へと染み込んで行って、2016年7月の“クーデター事件”に至った・・・。 

染み込むと言えば、ギュレン教団を追及しているネディム・シェネル氏は、「・・・ギュレン教団は既に国家を手中にできる勢力となっていたのだから、“染み込む”という表現は正しくない。染み込んでいたのはエルドアンの方だ・・」などと述べていた。 

ギュレン教団は、2002年にAKP政権を成立させた際、反米的なエルバカン師の愛弟子だったエルドアン氏のいないAKPを構想していたが、当時、エルドアン氏は「宗教を扇動した罪」で服役して被選挙権を失っていたため、これはほぼ実現していた。ところが、ギュレン教団の勢力拡大に不安を感じたCHPのバイカル党首(当時)が、エルドアン氏に被選挙権が与えられるように運動した、という説もある。これが正しければ、紛れ込んだのは正しくエルドアン氏の方だった・・・。 

しかし、こうして見ると、ギュレン教団(あるいはアメリカ)がターゲットにしていたのはトルコ軍であり、AKP政権は軍を弱体化させる目的で成立させられたと言えるかもしれない・・・。 

これでは、「栄光のトルコ軍」を賛美してやまないMHPの右翼的な論調のようになってしまうけれど、セーブル条約による国土の分割を免れたのは、軍にその力があったからだろう。 

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