メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

どちらが裏切ったのか?

トルコでは、アブドゥルラー・ギュル前大統領やアリ・ババジャン元副首相といったAKPの重鎮らによる新党結成がいよいよ実現するらしい。

 エルドアン大統領は、これを裏切り行為であると詰りつけているけれど、どうなんだろう?

AKPは、当初、「軍の影響力を排除した民主化の達成」であるとか「EU加盟」、そして「クルド問題の平和的な解決」を目標に掲げていたのではないかと思う。

ところが、現在のAKPとエルドアン大統領の政権は、国防相に前参謀長官のフルスィ・アカル氏を据えて、軍と一体化してしまったような印象さえある。

 ロシア製ミサイルの購入により、「EU加盟」どころか「NATO離脱」の可能性が論じられたりしている有様で、「クルド問題の平和的な解決」も大分様相が変わってきている。 

二週間ほど前には、南東部のディヤルバクル県等で民選の知事が解任され、ギュル前大統領はこれを厳しく非難していた。 

こうしてみると、AKPの当初のミッションに忠実なのはギュル前大統領らであり、裏切ったのはエルドアン大統領の方ではないかという見方もあり得るだろう。 

しかし、AKP政権の初期、国家主義的な人たちは、「EU加盟のための民主化」によりトルコの主体性が失われるのではないかという疑念を明らかにして、民主化を進めようとするAKP政権に警笛を鳴らしていた。「民主化でトルコ軍の弱体化を狙う欧米の陰謀」などと論じる人たちもいた。 

私はそれを良くある陰謀論のように感じていたけれど、民主化の中で却って分離独立の意思を露わにしてきたクルド系政党HDP、そして米国の介入によりクルド系勢力が増大したシリアの状況を見ていると、国家主義的な人たちの懸念もあながち杞憂ではなかったように思えてくる。 

HDPの議員が「オスマン帝国が崩壊したようにトルコ共和国も崩壊する」と語ったそうだが、これには彼らの後ろ盾となっている欧米の意思が反映されているかもしれない。 

AKPはギュレン教団の後押しがなければ、政権に就けなかっただろう。そのギュレン教団を後押ししていたのは米国に違いない。AKPそのものがトルコ国家に対する裏切り行為だった可能性もある。 

その中でエルドアン氏は、国家主義的なCHPの前党首バイカル氏と密かに親しい関係を持っていたことが、後にバイカル氏自身の発言で明らかにされている。 

元軍人のジャーナリスト、エロル・ミュテルジムレル氏が暴露したところによれば、1999年の段階で、既にトゥールル・テュルケシュ氏はエルドアン氏を次期首相として担ぎ出そうとしていたらしい。 

トゥールル・テュルケシュ氏は、1960年の軍事クーデターの首謀者の一人で、その後MHPの党首となったアルパスラン・テュルケシュ大佐の子息であり、2015年にはAKPに加入している。 

トルコ国家に対する反逆者であるかのように思われていたエルドアン氏は、意外に国家主義的な人たちから密かな支持を受けていたのだろうか? なんだか皆が騙されていたような気もする。 

トルコ国家はなかなかしたたかで、そう易々と欧米の意のままにはならないということかもしれない・・・。