メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

「ワインを飲むイスラム」と「イスラムのモディ首相」?

配送センターで働くムスリム・インド人就学生のサイードさんが、トルコ企業の社員となっている弟さんに電話して、イスタンブール市長選挙などについて訊いたそうだ。

 ギュレン教団系の学校でトルコ語を学んだという弟さんは、兄と同じく信仰に篤いムスリムではないかと思われるが、再選挙でも勝利してイスタンブール市長に就任したエクレム・イマムオール氏を「ワイン・イスラムの人」と評したらしい。

 イマムオール氏は、2008年に政教分離主義を掲げるCHPの党員となったものの、学生時代には故オザル大統領の祖国党で活動していたこともあり、結構信心深い人ではないかと言われている。そのため、イマムオール氏自身の飲酒傾向については良く解らないけれど、CHPの支持者には酒を飲む人たちが多いから、「ワイン・イスラム」というのは、なかなか巧い表現であるかもしれない。

 しかし、酒を飲む人は、AKPの支持者であっても珍しくないし、エルドアン大統領の閣僚の中にもいるだろう。私はサイードさんに、「それなら、トルコの男の半分ぐらいは“ワイン・イスラム”ですよ」と言ってやった。

また、「ワイン・イスラム」という表現に、かつての脱イスラム的な政教分離主義のCHP支持者たちは、不都合を感じたかもしれない。「『ワイン』はともかく、『イスラム』とは何事か!」と思ったのではないだろうか? それが、今や多少イスラム的なイマムオール氏の勝利に喜んでいる。

 AKPがイスラム主義の政党とは言えなくなったように、CHPも既に脱イスラム的な政教分離主義の政党ではなくなったのだろう。そもそも、今回の選挙でCHPは、AKPの母体となったイスラム主義政党とも連合を組んでいたのである。

 一方、サイードさんの弟さんは、エルドアン大統領を「イスラムのモディ」と評したそうである。つまり、「イスラムナショナリスト」ということだが、ムスリム・インド人の彼らは、モディ首相の「ヒンズー・ナショナリズム」を快く思っていないだろうから、これがエルドアン大統領を肯定的に評価した表現であるかどうかは良く解らない。とはいえ、とても興味深い喩えではないかと思う。

今回の選挙、CHPの連合には、左翼的なクルド政党にイスラム主義の政党も含まれていて、政策的な主張も曖昧だったようだけれど、「国難」を訴えたAKPとMHPの連合は、正しくこの「ナショナリズム」で一致団結していた。

 ところが、イスタンブールのような大都市では、「ナショナリズム」よりも経済の不調の方が響いてしまったようである。経済戦争を仕掛けて来たアメリカに対しても、かつてのように「反米」で盛り上がることはなかった。

 これは、ひょっとすると都市住民の多くがハングリー精神を失ってしまった所為であるかもしれない。「経済の不調」といっても、AKPが政権に就く前の状態に比べれば、それほど悪くないようにも思えるが、ひと頃のバブルっぽい景気の良さを味わってしまった人々には耐えがたい「不調」なのだろう。

 しかし、あの“バブル景気”は、AKPというよりギュレン教団アメリカの後押しにより実現したのではなかっただろうか? アメリカは、日本に対してもトルコへの投資を促していたそうである。

 日本のバブルが弾けた頃、「アメリカは日本を肥え太らしてから食うつもりだったのか? 我々はアメリカの犬じゃなくて豚だったのか?」なんて言う人たちがいたけれど、アメリカが意図的にトルコの人々のハングリー精神を奪おうとして仕掛けていたのだとしたら恐ろしい。アメリカはトルコの経済を後押ししながら、同時にクルドの分離独立も画策していたと思われるからだ。 

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