メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

大統領選挙は決戦投票へ

トルコの大統領選挙は、エルドアン大統領が49,42%の得票率に留まり、結局、44,95%で2位につけた野党6党連合のクルチダルオール氏との決選投票が2週間後に行われることになった。

常識的に考えれば、あと5万票(訂正:50万票)を上乗せすれば過半数に達するエルドアン大統領が圧倒的に有利だろう。クルチダルオール氏は、さらに300万票獲得しなければならない。

しかし、ここで鍵を握っているのは、5,2%で3位となったスィナン・オアン氏であり、オアン氏がどちらを支持するかによって明暗が分かれる可能性もあるという。

一方、オアン氏の得た5,2%が、全てオアン氏の支持者からもたらされた票であったのかどうかを疑問視する識者もいる。選挙の直前に撤退したムハレム・インジェ氏の支持者らが投じた票も少なくなかったのではないかと言うのである。

オアン氏は党内で協議した後、方針を明らかにすると発表しているが、果たしてどうなるだろうか?

オアン氏は、一時期、AKPと共にエルドアン政権を支えているMHP(民族主義者行動党)で活動していたため、「トルコ民族主義者」と目されているものの、アゼルバイジャンとの国境に接するウードゥル県出身のアゼルバイジャントルコ人であり、宗教的にはシーア派である可能性も指摘されている。

私はイスタンブールに住んでいた2014年、ウードゥル県出身者の多いハルカル地区で催されたシーア派の祭典「アーシューラー」を見に行ったことがあるけれど、祭典で熱狂しているシーア派アゼルバイジャントルコ人政教分離主義のCHP支持者が多いので驚かされた。良く解らないが、主流のスンニー派に対する不満がCHP支持の要因となっていたのかもしれない。

オアン氏がMHPに在籍していたのは、トルコ共和国の「国土の不可分の統一」を守るため、共にクルド分離独立主義者らと戦おうとしたからではないかと思われるが、MHPの主要メンバーには濃いスンニー派ムスリムが少なくない。

ここで注意しなければならないのは、オアン氏らが戦ってきたのはクルド分離独立主義者であってクルド人のトルコ国民ではないことである。

このブログで何度も書いて来たので、今更、繰り返したくもないが、トルコでは宗派の違いが問題になることはあっても、母語が異なることによる「民族」の違いは殆ど問題にならない。

例えば、ローザンヌ条約に基づく、ギリシャとの住民交換では、ギリシャ語を母語とするムスリムが「トルコ人」と認定されてトルコへ送られ、トルコ語母語とするギリシャ正教徒は「ギリシャ人」と認定されてギリシャへ送られてしまった。

そもそも、オスマン帝国の末期に「トルコ民族主義」を掲げて「トルコ人化・イスラム化・近代化」を提唱したズィヤ・ギョカルプは、今でもMHPに信奉者が多いけれど、ギョカルプ自身の母語クルド語のクルマンチ方言あるいはザザ方言だったのではないかと言われている。

しかし、ギョカルプの提唱した「トルコ人化」を急ぐあまり、トルコ共和国が長い間、トルコ語以外の言語を認めようとしなかったのは事実だろう。

これが却って「クルド民族主義」を芽生えさせ、嘆かわしい民族問題をもたらしてしまったようだ。

エルドアン政権以来、この民族問題は「クルド語の教育」や「クルド語の放送」が実現することにより大幅に改善され、エルドアン政権内のクルド人有力者らは「問題は既に解決済み」と主張している。

彼らによれば、現在、最も大きな問題は、トルコの分割を企図する米国から支援されてきたクルド分離独立主義者、そしてやはり米国からの支援を受けて大統領選挙に臨んだクルチダルオール氏のような人物の存在であり、トルコ共和国の「国土の不可分の統一」を脅かしているというのである。

そのため、今回の選挙後の論評でも、政権寄りの識者らは、「国土の不可分の統一」を重視しているオアン氏がエルドアン大統領支持に回るのではないかと論じている。

選挙でエルドアン大統領に与したイスラム的なクルド系政党「HÜDAPAR」が、米国のような外国勢力と繋がっている事実はないが、クルチダルオール氏に与したクルド民族主義政党「HDP」、そしてギュレン教団は明らかに米国と結託している。これをオアン氏がどう見るかは明らかだと言うのである。

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