先月の末頃、配送業務で、いつも渋滞している2号線をのろのろと進みながら、沿道の様子を眺めていると、長蛇の行列が出来ている所があって何事かと思った。
良く見たら、「年末ジャンボ宝くじ」を買い求める人たちが寒空の中を並んでいるのである。
その後も、この宝くじ店の前を通る度に注意して見たけれど、長い行列になっている日もあれば、殆ど並んでいる人がいない日もある。
当初は何故だか解らなかったが、もの凄い行列で整理係の店員まで現れた日に、「大安吉日」というのぼりが掲げられているのを見て合点が行った。
どうやら、「大安」や「寅の日」といった縁起の良い日には行列となり、「仏滅」のような縁起の悪い日には誰も来ないということらしい。
トルコでも、「新年宝くじ」は賞金が最も多く、年末になると宝くじ店の前に多くの人が並んでいたりした。
分けても、イスタンブールはシルケジの「ニメット・アブラ(ニメット姉さん)本店」の前は、何処までも続く凄まじい行列になった。しかも、こちらは連日の行列で、縁起の良い日も悪い日もないようだった。
トルコでも、イスラムの預言者ムハンマドの生誕日などは「縁起が良い」とされているのではないかと思うが、それを気にする敬虔な信徒は、教義上の禁忌である「賭博」の一つに数えられる「宝くじ」を買うはずがないのである。
もっとも、トルコではオスマン帝国の時代から宝くじは売られていたらしい。
「ニメット・アブラ(ニメット姉さん)」の前に並ぶ人たちは、「日」じゃなくて「店」の縁起の良さを信じて、シルケジまで来るのだろう。
実際、「ニメット・アブラ」からは、これまでに何度も大きな当たり券が出たそうだ。とはいえ、販売数が桁外れに多いのだから、当たり券が多かったのも当たり前である。
トルコには、店舗を構えない行商スタイルの宝くじ屋さんもいて、彼らは「ニメット・アブラ」の行列の後ろの方を練り歩きながら商売に励んでいたりした。
年末のイスタンブールはとても寒いから、辛抱しきれない人たちをターゲットにしていたのだろう。
行商宝くじ屋さんの中には、「何処で買っても当たる確率は同じです!」と行列に向かって呼びかけている人もいた。まさしく道理である。
何処の「店」でも、いつの「日」でも、当たる確率は全く変わらないはずである。
しかし、わざわざ「ニメット・アブラ」まで来て並んでいる人たちに、この道理が通用するとは思えない。日本で「大安吉日」に並ぶ人たちにとっても同様だろう。
そもそも、「当たる確率」など考えている人たちは、あまり宝くじを買わないような気がする。
「ニメット・アブラ」の店名になっているニメットさんは、この宝くじ店の創業者で、正式には「メレッキ・ニメット・オズデン」という。メレッキは天使、ニメットは「神の恵み」の意だから、名前からして実に縁起が良い。
ウイキペディア等で調べたところ、ニメットさんは1899年にイスタンブールで生まれ、1978年に亡くなっている。
1928年、夫の営んでいた煙草屋で、宝くじも売りに出されたことが、彼女の人生に大きな転機をもたらしたそうである。
夫が宝くじの売り上げ金を回収できずに、店の経営が危機に瀕したため、彼女は自ら運営に乗り出し、1931年、10万リラの「新年宝くじ」の当たり券が同店から出ると、これを新聞広告等で大々的に知らせて、成功の糸口を掴んだらしい。
1931年当時から、メディアの活用を考えていたなんて、なかなか商才に長けた女性だったようだ。
*「年末ジャンボ」の販売は22日までだったそうで、一昨日、通りかかった時は、もう誰も並んでいなかった。