メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

大統領の次男ビラル・エルドアン

エリスタンの店主が、アルカイーダとかISのメンバーと見做され、「エルドアンの息子がメンバーと接触」などと伝えられた事件。
昨日、CHPのスポークスマンであるハールク・コチ副党首は、良く調べずに誤った発言をしたと認めて謝罪したそうだ。でも、報道の文面を見る限り、謝罪の対象は「イスタンブールの商工業者」となっていて、大統領の次男ビラル・エルドアン氏は含まれていないような気がする。
いずれにせよ、一緒に写真を撮ってくれたジエリスタンの店主さんの名誉が回復されて良かった。一方のビラル・エルドアン氏については、メディアから得られる情報だけで、活きたイメージなど無いに等しい。特に何の感情も生じないのである。
しかし、ビラル氏がああいう庶民的な店でレバー串焼きを食べていたというのは、なかなか微笑ましい美談であるかもしれない。
ビラル氏は、2013年の12月に、海峡横断地下鉄マルマライのシルケジ駅がオープンすると、これを伝えるニュースの中で、一般の乗客として駅構内を歩いているところがカメラに捉えられている。リポーターが近寄ってマイクを向けたら、「勘弁して下さい。子供と出掛けているだけですから・・・」と照れ臭そうにインタビューを断り、逃げるように立ち去った。
実際、通路の中ほどに陣取った取材班の横を黙ってすり抜けようとしたところを捉まってしまったという印象で、やらせらしい雰囲気は全く感じられなかった。そもそも、そんなやらせをする必要など何処にもない。
マルマライが開通して以来、シルケジ駅オープンの前にも、度々、車内や利用客らの様子が報道されていたけれど、そこでもイエニカプ駅の改札を通るビラル氏の姿が映し出されていた。どうやら、頻繁にこの路線を利用していたらしい。
トルコでは、ちょっと社会的に成功した人たちが、公共交通機関を利用するのは余り一般的な光景じゃない。私は驚きと好感をもって、その姿を画面の中に見ていた。
ビラル氏については、12~3年前、反エルドアンの左派ジャーナリストがアメリカ留学中のビラル氏へインタビューした記事を読んだのが、おそらく初めての情報だったのではないかと思う。
インタビューの内容は殆ど忘れてしまったものの、そのジャーナリストが、ビラル氏の印象として、「こんな好青年が、何故、あの父親に反対しないのか?」といったような感想を述べていたのは覚えている。『その好青年を育てたのは誰だったのか?』と非常に奇異に思えたからだ。
1ヵ月ほど前、政権寄りの放送局で、ビラル氏は初めて長いインタビューに答えている。それまでは、なるべく一般の市民として社会活動に携わりたかったため、テレビ出演を断ってきたが、誹謗中傷のレベルがあまりにも激しくなり、いよいよ自ら所信を明らかにしなければならないと感じたそうである。
残念ながら、トルコの社会で、ビラル氏が一般の市民になるのは無理じゃないだろうか。本人や家族がいくらそう望んでも、まわりがそれを許さないに違いない。
現在、主として女子教育を中心とした社会事業に熱心に取り組んでいるようだけれど、これが国際政治学を専攻しているビラル氏にとって本望であるのかどうか、インタビューを聞いた限りでは良く解らなかった。しかし、当たり障りのない教育事業が最も無難であるのかもしれない。
2013年12月、シルケジ駅オープンから10日ほどして、例の不正云々事件が起こる。あれで、ビラル氏も一般市民の夢は諦めざるを得なくなったのか、以降、様々な式典などで、父大統領と並んで立ったりする姿が多く見られるようになった。それでも、どことなく控えめな様子は感じられる。
先月だったか、ビラル氏が携わっている教育事業の一環として、新しい女子学生寮がオープンし、エルドアン大統領も式典に駆け付けた。ところが、いざテープカットの段階になったら、ビラル氏は後ろに下がって姿を隠してしまう。
これに、エルドアン大統領がいら立ち、「おい、お前は当事者なんだから、ちゃんと前に出て、メフメット兄さん(メフメット・シムシェク副首相)の横に来なさい」と命じたので、壇上は笑いに包まれてしまった。引き上げる際、シムシェク副首相が労わるように笑いながらビラル氏の肩を叩いているのが見えた。
ああいった場面を見ていると、ビラル氏は今でも至って好人物であるように思えてくるのだが・・・。

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