メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

アラビア文字表記のトルコ語

今、トルコでは、オスマン帝国時代に使われていたアラビア文字の表記によるトルコ語(所謂オスマン語)の学習を必修にするかどうかが激しく議論されている。
日本で古文や漢文が必修科目となっていることに異議を唱える人は余りいないだろうから、私たちには、この激しい議論が少々奇異に感じられてしまう。しかし、アラビア文字の学習が、イスラム化に繋がるのではないかと恐れている人たちもいて、なかなか簡単には収まらないようである。
アラビア文字イスラムに関しては、15年ほど前、イスタンブールに留学していたイラン人の友人ルザから、面白い話を聞いたことがある。
ルザは酒も飲めば豚肉も平気で食べそうな青年で、宗教傾向は全く感じられなかった。イスラム関連の本なども殆ど読んでいなかっただろう。
ある日、ルザはボスポラス海峡連絡船の中で、化学について書かれたペルシャ語の本を読んでいたという。そしたら、隣に座っていた老人が聞こえよがしに「愚か者がコーランを読んでいるよ」と言い放ったそうだ。
ペルシャ語は、もちろんアラビア文字で表記されているから、老人はそれだけでコーランイスラムを連想してしまったらしい。
ルザは、「宗教を押し付けるイランの体制も馬鹿げているが、この国の政教分離主義者も同じくらい馬鹿げている」と良く嘲笑気味に語っていた。
さて、この必修云々の議論について、ラディカル紙のオラル・チャルシュラル氏は、12日付けコラムで次のように記している。
オスマンは、アラブの国家ではなかった。文化もアラブの文化ではなかった。その中に、トルコ、アラブ、ペルシャアルメニア、ルーム(ギリシャ)、ユダヤクルド、チェルケズ、ラズ、アルバニアビザンチン文化の跡を残す、豊かで世界的な規模を有する帝国の文化だったのである。オスマンを全て否定し、その代わりに他のルーツを求めたのは、残念ながら良い結果を残さなかった。・・・」
でも、この豊かな文化の全容を把握しようとしたら、ギリシャ語やアルメニア語も学ばなければならなくなってしまうかもしれない。
また、仮にトルコ語に限ってみても、アラビア文字表記を学ぶだけで充分だろうか? オスマン帝国時代には、アルメニア文字で表記されたトルコ語の小説も書かれていたそうである。
しかし、日本は、アラビア文字からラテン文字へといった“文字改革”を行なったわけじゃないけれど、私たちは中学や高校で古文を学んだぐらいじゃ、あの変体仮名が解らないから、明治初期に書かれた手紙等も殆ど読めないだろう。
ところが、オスマン帝国時代のトルコ語の小説であっても、ラテン文字表記にさえ直してもらえれば、私でもその小説を読める。

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