メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

プレゼント(贈り物)という名の女

もう4~5年前になりますが、「イスヤン・ギュンレリンデ・アシュク(反乱の日々の恋)」というアフメット・アルタン氏の小説を読み進めていた頃の話です。
この小説は、以下の駄文でも話題にした「クルチ・ヤラス・ギビ(刀傷のように)」の続編で、オスマン朝の末期を舞台に繰り広げられるメリハリの利いたストーリー展開は、468ページをそれほど長いものに感じさせませんでした。

 「クルチ・ヤラス・ギビ(刀傷のように)」で、父が皇帝の主治医である“フランス帰りの伊達男”ヒクメット・ベイは、イスラムの導師と別れたばかりの美女メフパーレと結婚して甘い日々を過ごしていたけれど、滞在先のテッサロニキで、妻のメフパーレがギリシャ人の情夫のもとへ走ってしまい、嘆き悲しんだヒクメット・ベイはピストル自殺を図り、ここで物語は終っています。
続編の「イスヤン・ギュンレリンデ・アシュク(反乱の日々の恋)」では、一命を取り留めたヒクメット・ベイが、テッサロニキの病院で傷を癒した後にイスタンブールへ戻り、物語は新たな展開を迎えるのです。
イスタンブールで、ヒクメット・ベイが先ず父の屋敷に身を寄せると、父は傷心の息子を労り、暫く屋敷に留まるよう勧め、女中に部屋を用意させました。

そして、ヒクメット・ベイが女中に案内されてその部屋へ入ったところ、ベッドに若い女が佇んでいたので、ヒクメット・ベイは驚き、廊下に出て女中を呼びとめ、女が何者であるか尋ねると、女中は「お父様より、ヘディエ(プレゼント)でございます」と言い残して立ち去ります。
それから、ヒクメット・ベイは、その若い女に名前を訊いたけれど、「名前はございません。貴方がつけて下さい」と言われ、女をヘディエ(プレゼント)と名付けて寵愛しました。
4~5年前、この場面を読んでから、ほんの数日過ぎ、パソコンが壊れてしまい、市内の代理店へ出かけて、受付にいた若く美しい女性に事情を説明しながら、彼女の胸についていたネームプレートを見たら、なんとそこには“ヘディエ”と記されていたのです。
“ヘディエ”という名が、物語上の創作であるとばかり思っていた私は、これに驚き、こみ上げてくる笑いを抑えるのに苦労しました。
まあ、これだけの話ですが、先日もトルコ人の友人と与太話を楽しんでいる際、この話を披露したら、友人は呆れたように、「なんで君は、そのヘディエさんに、小説の話を聞かせて上げなかったの? 馬鹿だねえ。彼女もきっと面白がって話に乗って来たと思うよ」とぼやいていたものの、私にそんな機転が利くわけありません。

話したところで、助平根性が丸出しになり、おそらくヘディエさんの機嫌を損ねてしまったでしょう。

merhaba-ajansi.hatenablog.com