メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

風変わりな人々

今、住んでいるエサットパシャは、どちらかといえば保守的で、地方から出て来た信仰に篤い庶民が多く暮らす街ですが、私のような外国人もいるし、中にはちょっと風変わりなトルコ人もいて驚かされます。

例えば、我が家の直ぐ近くにある携帯電話店の経営者。この店、最近、代替わりしたばかりだけれど、前の経営者も相当に変わった人物でした。

私は2ヶ月に一度くらい、プリペイド式携帯電話のポイントを入れる為にここを利用するだけですが、その35歳ぐらいの経営者は、私が店を訪れると、「オー、マイフレンド!」とか何とか、妙な英語を叫びながら、歓迎してくれました。なんでも、以前、数年に亘ってアメリカで暮らしたことがあるそうです。

「僕はアメリカでも日本人とは一人しか知り合えませんでした。貴方が二人目の日本人です」
「私が二人目? アメリカには、たくさん日本人が住んでいるはずですが?」
「僕はねえ、アメリカへ労働者として出稼ぎに行ったんですよ。そういう環境にいると、中国や韓国の人たちとは知り合えるけれど、日本人とは出会う機会もありませんでしたね」

だから、ここで日本人と知り合えたことが、とても嬉しかったようです。

91年に初めてトルコへやって来て、1ヵ月ほど滞在したイズミルの安宿、コライ・ペンションの管理人アリさんも、長年暮らしたドイツで日本人とは全く知り合いになれなかった言い、「ドイツに韓国人の友人はたくさんいたよ。でも、あそこで日本人はドイツ人と同じ立場だったからねえ・・・」と寂しそうに話していました。アメリカへ行った彼も、同じように感じていたかもしれません。

一昨日、この携帯電話店へ行ったら、彼の代わりに新しい経営者が座っていたけれど、この男も同じく35歳ぐらいで、やはり相当に変わっています。私が外国人の非イスラム教徒だと解ったからなのか、いきなりキリスト教系の某新興教団について尋ねて来ました。

「その教団について余り良く解りませんが、日本でも色々と問題になっているようです。何故、そんなことを尋ねるのですか?」
「私がその教団の信者だからですよ」
「えっ? 貴方は信者なの? 大丈夫なんですか? この辺で抑圧とかありませんか?」
トルコ共和国政教分離の国です。合法的に認められているし、抑圧なんてありませんよ」
「いや、だから国からの抑圧じゃなくて、この近所から抑圧を受けないかということなんですが?」
「まあ、そういうのは多少ありますが、信仰を放棄しなければならないほどの抑圧はありませんね」
「ところで、貴方の故郷はどちらなんですか?」
「エルズィンジャンです」
「ひょっとして、前はアレヴィー派だったとか?」
「そうです、アレヴィーです。良く知っていますねえ、ハハハハハ」

驚きました。しかし、その教団に走るくらいなら、イスラム系の新興教団でも良かったように思えるのですが、何だか良く解りません。

正直言えば、その教団に関して、私は少々剣呑なものを感じているけれど、彼自身はとても好人物に思えたので、「貴方、変わっているねえ。面白い人と知り合えて嬉しいよ」と言って手を差し伸べ、固く握手を交わしてから、「この店の前の経営者も随分変わった人みたいでしたが・・・」と水を向けたら、「そうそう、あれも変わっていましたねえ。この店を全て買い取ったものの、彼の私物もあるだろうと思って訊いたところ、カバンを一つ掲げて、『僕の私物はこれだけです。今度はこれを持ってアフリカへ行きます』なんて言うんですよ。楽しい男でした」と愉快そうに話していました。