メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

カシャル・ペイニルの語源に驚く

トルコ語でチーズはペイニルと言い、辞書を見ると「ペルシャ語からの借用語」となっている。どうやら、イランのパニールなどと同じ系統らしい。
日本では、「ギリシャフェタチーズのような・・」と説明されたりしている。しかし、トルコのアナトリアは、オスマン帝国の成立以来、徐々にイスラム化とトルコ化が進んだものの、ギリシャ人はオスマン帝国の末期に至るまで、経済的、文化的に影響力のある民族として存在を維持していたそうだから、似ているというより、もともと同じチーズだったのではないかと思う。
市場へ行くと、そのフェタチーズのような白いチーズ“ベヤズ・ペイニル”が、確かに多いけれど、紐状や捻り棒状など、様々な形のチーズがあり、それぞれに風味も食感も異なる。草が入ったチーズもあって、これがとても美味しい。
カシャル・ペイニルは、“ゴーダチーズ”に似た硬質な黄色いチーズで、やはり産地や熟成度により違いがある。このカシャルの由来を調べてみて驚いた。
カシャルの生産は、100年ほど前、オスマン帝国領内だったテッサロニキで始まったらしい。伝聞によれば、テッサロニキでチーズを作っていたユダヤ人一家の娘が、失敗から偶然に作り上げてしまう。
しかし、それまで食べたことがないチーズだった為、一応、ユダヤ教の導師ラビに、食べても良いか尋ねたところ、「これは“コーシェル(食事規定)”に適っている」と認定してくれた。それで“カシャル”と呼ばれるようになったそうだ。“カシャル”の語源は、なんと“コーシェル”だった・・・。

 ところが、もう一つ別の説もあるというから、話はややこしくなる。

当時のテッサロニキは、オスマン帝国で最も西欧に近い開かれた港町であり、イタリアから珍しいチーズも輸入されていた。

その中にカチョカヴァッロ(Caccio-Cavallo)というチーズがあって、これが先ず“カシカヴァル”と訛り、さらに“カシャル”に変化したと言う。この為、ブルガリアなどでは、今でもこのタイプのチーズを“カシカヴァル”と呼ぶそうである。
余談だが、こういった由来を知っていたのか、ルム(トルコに住むギリシャ人:ローマの末裔の意)の故マリアさんの娘スザンナさんは、「カシャルは、ギリシャの方が美味い」と良く言っていた。

マリアさんもスザンナさんも、ギリシャとトルコに同じ食べ物があれば、大概イスタンブールの方が美味いと決め付けていたのに、カシャルだけは別にしていた。あと、マリアさんは、コーヒーもギリシャの浅煎りが好きだったようだが・・・。
マリアさんは自分たちの料理を“ポリティキ”と称していた。コンスタンティノポリ風という意味らしい。大概のものは、コンスタンティノポリ、つまりイスタンブールの方が美味いのである。

しかし、マリアさん家族の友人だったアルメニア人のガービ爺さんは、「ギリシャのカシャルが美味いのは、ブルガリアから輸入しているからだ」とスザンナさんに反論していた。
トルコの人たちに言わせると、ブルガリア酵母が良いので、チーズもヨーグルトも美味しく出来上がる。

オスマン帝国の宮廷でヨーグルトを作っていたのもブルガリア人の職人だったらしい。そういったブルガリア人の子孫が乳製品を売っている店が、今でもイスタンブール市内にある。 

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