メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

子供の塾通い

 先日、上記の話でお伝えした天真爛漫なレンタカーの運転手とまた会って、お茶を飲んで雑談してきたのですが、今回は彼の奥さんも一緒でした。

彼は、両親が保守的な南東部ワン県の出身であり、あの取材旅行中、酒の席に同席しても自分は飲まなかったくらいだし、けっこう信心深そうな話もしていたから、多分、そうじゃないかと思っていたけれど、一緒に現れた奥さんは、やはりしっかりスカーフを被っていたばかりか、大きなサングラスを掛け、私が挨拶すると、ちょっと会釈しただけで、何も言わなければ握手もしようとしません。

そのままずっと黙っていられたら、こちらも気まずくなってしまいそうでしたが、席についてお茶を飲み始めてから、サングラスを外し、亭主と私の話にも割り込んできたのでホッとしました。奥さん、なかなかしっかり者です。自分の意見を持っているし、言葉にも力がありました。

天真爛漫氏は、「教育に悪いから、子供たちの前では、汚い言葉も使わないように気をつけているし、夫婦喧嘩も子供たちが見ている所ではやらない」なんて言ってたけれど、あの奥さんが相手じゃ、喧嘩しても敵わないでしょう。

しかし、この夫婦、子供の教育には、実際、かなり力を入れているようで、9歳の長男を学習塾に通わせているそうです。トルコでも、最近はこんな親たちが増えて来たかもしれません。

3年ほど前、日本から来られていた方とボスポラス海峡を渡る船に乗っていたところ、向かいの席に座っていた親子連れが話しかけてきました。スカーフを被った30代と思しきお母さん、10歳ぐらいの娘、そしてその弟です。

「英語は話せますか?」と訊かれたので、「私は駄目ですが、こちらの方はかなり話されますよ」と答えたら、お母さん、娘に向かって、「さあ、何か英語で話してみなさい」と発破をかけたものの、娘さんは照れてしまったのか、未だそれほど勉強していなかったのか、挨拶ぐらいしか口にしませんでした。

お母さんは、「これからの時代、やはり英語が話せなければいけないと思って、わざわざ英語塾に通わせているんですよ」と笑っていたけれど、御自身は英語など殆ど解っていなかったみたいだし、それほど裕福な家族でもなかったでしょう。何だか、ビートたけしと母サキさんの話を思い出してしまいました。

今、こうして塾通いさせられている子供たちが、社会へ出て働き始める頃のトルコを想像したりすると、そこに右肩上がりの活力が感じられて、羨ましくなります。

また、この親子連れも、かなり信心深そうだったから、おそらく天真爛漫氏と同様に、現AKP政権を支持していたのだろうけれど、こういった家族を見ている限り、イスラム化の怖れなども杞憂に思えるのではないでしょうか。

しかし、一部のイスラム知識人のコラムなどを読んだりすると、まるで世俗主義に挑戦するかのような意見が述べられていたりして、一抹の不安を感じてしまうし、エルドアン首相にしても、如何に現実的で柔軟な政治家とはいえ、長年に亘り、おそらくある種の使命感を持ってイスラム運動に携わっていた人物だから、この不安も全くの杞憂ではないかもしれません。

世俗主義者の中には、「エルドアンなんて、宗教を利用して金もうけしているだけで、信仰心の欠片もないだろう」などと悪態ついている人たちがいるけれど、全く馬鹿げた話で、それなら、彼らは却って安心して良いはずです。

確かにブルジョワ志向はあるかもしれませんが、そんなこと言えば大概のトルコ人がそうであるし、やはり敬虔なムスリムであり、政治家としては強面なところがあるにしても、恐妻家という噂もあり、家庭では良き夫、良きお父さんじゃないでしょうか。だからこそ、一部の世俗主義者たちが、そのイスラム傾向を懸念しているのだと思います。