メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

理容室の回転看板と韓国の思い出

昨日、ヨーロッパ側のヒルトンホテル付近を歩いていたら、雑居ビルの2階に、日本の理容室で見かけるような回転看板が出ていたので、『おやっ?』と思って、2階まで上がってみました。今まで、トルコでは、こういった理容室の回転看板を見た覚えがなかったからです。
2階に上がると、そこは主に女性が利用する美容院になっていて、店主らしき青年と二人の女性が働いていました。女性の一人は青年の奥さんだったかもしれません。
看板の由来を訊いたら、奥さんと思しき女性が快活に、表情豊かに答えてくれました。
「ヨーロッパへ行くと、大概、美容室には、あの看板が出ているそうですね。私たちは、この前、イスタンブールの商品見本市で見つけて、面白そうだから一つ買って来ました」
「日本でも、理容室や美容室には、もっと大きいのが店の前に置いてあります。でも、トルコじゃ初めて見たような気がしますよ」
「そうでしょう。トルコ人が何人も“あれは何なの?”と訊きに来たくらいです。ヨーロッパの人たちは、あの看板見て、美容室だと分かって入って来ますね。一度、韓国人も来てくれました」
「えっ、韓国の人って男ですか?」
「いや、女性でしたよ」
最後の問答、入って来た韓国の人が男性だったら、彼はがっかりして帰ったかもしれないと、つまらない想像にほくそ笑んでしまいました。
私が滞在していた88年当時、ソウルの街中で、あの回転看板を出して商売している“理髪所”は、その殆どが整髪と共に、女性従業員の“お色気サービス”を実施していたからです。そういうサービスを受けたくなくて、純粋に髪だけ切りたい人は、銭湯の中にある理髪コーナーや大学などの構内にある理髪所へ行かなければなりませんでした。
“お色気サービス”は、妙に体を密着させながら行うマッサージ程度のものから、かなり集中的な局部マッサージ、もっと過激で明記するのも憚られる淫らなサービスに至るまで色々あったけれど、店の外見を見ただけでは、そこのサービスがどの段階にあるのか判然としないため、初めての店は、入る時になかなかスリルを感じました。
ある書物には、回転看板が激しく早く回っている店ほど、サービスも激しくなるという俗説が紹介されていましたが、これはちょっと信憑性に欠けます。そもそも、そんなに激しく回っている看板など見たことがありませんでした。
しかし、一度、ソウルの繁華街で、あの回転看板が、入口の左右と上に、合計7本も出ている店を発見した時は、『これは絶対に何かあるはずだ』と思わず吸い寄せられるように近づき、入口を開けて中に踏み込んだところ、そこには、到底“理髪所”とは思えない光景が展開されていました。

目の前のソファーに、艶かしいドレスを着た女性が4人ほど、科を作って待ち構えていたのです。私は期待を遥かに上回る光景に怖気づいて後ずさりし、そのまま退散せざるを得ませんでした。