メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

酒類販売の規制

9月になって、いよいよ酒類販売規制法が施行された。うちの近くの酒屋も、なんだかんだ言ってたけれど、10時を過ぎると、ちゃんと店を閉めてしまう。お陰でラクを1本、非常用に買ってしまった。まあ、だからと言って、酒量は増えていないが・・・。
しかし、バスに乗っていて、10時過ぎてから、外の様子を注視していると、こうこうと明かりをつけて営業している酒屋がチラホラ見える。近所の酒屋に「あれは何なんだ?」と訊いたら、「ちょっと大きい店でしょ? 10時過ぎは他の食料品だけ売っているんですよ」なんて言う。さあ、実態はどうなんだろう?
91年に初めてトルコへ来た頃は、酒税がうんと低かったのか、コーラよりビールのほうが安かったような記憶がある。当時は未だ飲酒が奨励されていたのかもしれない。
共和国は、革命以来“脱中東入欧”を目指して、人々の趣味や生活スタイルにまで介入した。ヨーロッパのクラシックが最も良い音楽であり、“アラベスク”という大衆音楽を聴いてはいけないとか、西欧のように、家の中でも靴を脱がないほうが良いとか、余計なお世話としか思えないものもあった。飲酒も西欧風で近代的な行為に数えられていたのだろう。
日本では、かえって西欧趣味の人たちが、日本的な酔っ払い風景に眉を顰めているような気がする。性風俗においても、衆道や夜這いといった伝統は、近代化の過程で廃れていったらしい。
2年ほど前、一度だけ国内線のビジネスクラスを利用したことがあった。昼の2時頃の便だったと思う。イスタンブールからイズミルまでだから、1時間も掛からない。
離陸して上空に達したら、直ぐにスチュワーデスさんが現れ、信じられないくらい“にこやかな笑顔”で、殆ど跪かんばかりに身体を屈め、何か飲み物が入ったグラスを差し出してきた。
彼女は何も説明しなかったが、様子からしてアルコールじゃないかと思って飲んでみると、やはりシャンペンだった。瞬く間に飲み干してしまったら、「もう一杯如何ですか?」と勧められたけれど、イズミルには仕事で行くのだから、着く前に酔っ払ってしまうわけにも行かず、残念ながら断った。
トルコ人の乗客にも同様にサービスしていたが、いくらなんでも、こちらには「お酒は飲めますか?」ぐらい確かめていたのだろう。

しかし、日本人にも飲まない人はいる。アルコール分解酵素が無くて、全く受け付けない人だったら、シャンペン一杯で卒倒してしまうかもしれない。それを何の説明も無しに勧めて良いものかと思った。
最近、トルコ航空がこのサービスはもちろん、国内線での酒類の提供を廃止したら、“イスラム化”だと言って、これにまで目くじらを立てるトルコ人がいた。

国内線なら一番遠い所でも2時間と掛からない。わざわざ飲む必要があるのか? ビジネスクラスで頼みもしないのに酒を振舞っていたことのほうが非常識だろう。
先日、深夜の1時にイスティックラル通りを歩いていたら、ふざけ合いながら歩く3人の若い女性たちを見かけた。別に不良っぽいわけじゃない、普通のOLか大学生風だが、一人は明らかに酔っていた。この女性は何も被っていなかったものの、3人の中の一人はきっちりスカーフを被っていた。
このスカーフの女性も飲んでいたかどうかは定かじゃないけれど、彼女たちがレストランかバーで一緒に時間を過していたのは間違いないだろう。
酒類販売規制法は、小売を対象にしているだけだから、バーなどは相変わらず深夜まで営業している。

政治的な意向とは関係なく、普通に酒を飲んでいるトルコ人の友人は、「私たちはオスマン帝国の時代から飲んでいるんです」と、規制法にも拘わらず、何の心配もしていなかった。
国家が奨励したり、禁止したりしなくても、飲む・飲まないは、当たり前に個人が判断する時代になったのだと思う。