メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

イエニ・イデアル(Yeni ideal)-イスタンブールの豚肉加工品店

数年前、何度か、ヨーロッパ側のドラップデレにある“イエニ・イデアル”という食料品店で、豚肉のハムやソーセージを買い求めたりした。やっぱりハムやソーセージは豚肉が美味しい。

それが、アジア側の外れのイエニ・ドアンへ越して以来、どうも足が遠のいてしまった。ヨーロッパ側の中心タクシムに近いものの、ドラップデレは何とも交通の便が悪い所にある。
しかし、先週、やはりタクシムに近いベイオウルの食料品店で、イエニ・イデアル製造のソーセージが売られているのを見て、ふと懐かしく思った。それで、もう一度場所を確認しようと、ネットで調べてイエニ・イデアルの住所を見つけ、これをグーグールアースの検索に掛けたら、もっと交通の便が良いメジディエキョイの近くに表示が出た。
『あっ、こんなところに引っ越していたのか』と喜び、昨日、パスポート更新のために領事館まで出かけた帰り、その辺りまで足を延ばして見たけれど、これが何処をどう歩いても見つからない。
いろいろ考えあぐねた挙句、故マリアさんが眠るメジディエキョイのギリシャ正教徒墓地の管理事務所で訊けば分るだろうと思いつき、早速実行に移して見たところ、応対に出たルム(トルコ在住のギリシャ人)の方は、首を捻りながら、「それはおかしい、イエニ・イデアルは今でもドラップデレで、引っ越してなんかいません。経営者は私の友人ですから良く知っていますよ」と言う。
それから、スマホを取り出して、ネットでイエニ・イデアルのホームページを探し出すと、それを元に道筋まで丁寧に教えてくれた。どうやら、グーグルアースの検索に間違いがあったらしい。
深く礼を述べて、管理事務所を後にすると、『これはきっと、今日は豚肉のソーセージを買えという神のお導きに違いない』と勝手に解釈し、そこから7~8キロの道のりを飛ぶように歩いて、ドラップデレのイエニ・イデアルまで行った。ドラップデレにあるギリシャ正教の教会の少し先である。
イエニ・イデアルは、コズマオウルという家族によって経営されているようだ。“オウル”は、トルコ語の“息子”の意であり、“~オウル”はトルコ人の姓に良く見られるが、故マリアさんの娘のスザンナさんによれば、カラマンルのギリシャ正教徒にも“~オウル”は多いらしい。

カラマンルは、トルコ語母語とするギリシャ正教徒だけれど、母語の如何に拘わらず、トルコやギリシャでは彼らもルム(ギリシャ人)と見做されてしまうのである。
さて、昨日は、ソーセージとベーコンを少し買って来た。お店の人に訊くと、いずれもトルコ国産の豚肉による自家製であるという。トルコの養豚場は、かつて3~4ヵ所あったが、今はエーゲ海地方に一つしか残っていないそうで、肉はそこから取り寄せているらしい。
まあ、トルコで豚肉の消費は高が知れているだろうから、今のところ養豚場は一つあれば充分かもしれない。3~4ヵ所あっても、豚肉を輸出していた形跡はないし、いったいどういう需要があったのか不思議なくらいだ。

イスタンブールで韓国料理屋を経営していた知人は、トルコ国産の豚肉はいまいち美味しくないと言って、ギリシャへ行くたびに豚肉を買い込んで来ていた。それぐらいだから、大した需要もなかっただろう。そのため、普通に市販されている牛肉ソーセージの中にも豚肉が混入されているんじゃないかと噂されていたこともある。
豚肉は、我々にとっては美味しいけれど、豚肉を禁忌とするイスラム教の人たちが、わざわざ豚肉食べて、それを近代化と考えていたのであれば、そういうのも随分無理な理屈だったような気がする。
最近は、そこまで肩肘張って近代化を唱えなくても、海外へ出れば、あまり抵抗なく豚肉の入った料理を口にするトルコ人も増えて来た。そのうち、ギリシャへ渡ったルムの人たちが、トルコへ戻ってくるようなことになれば、また新たに養豚事業に乗り出す人が現れるかもしれない。

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