メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

トルコの与党AKPは何故敗北したのか?

昨年の大統領選挙・国政選挙で勝利を収めた与党AKPが、何故、今回の地方選挙で惨めな敗北を喫したかについて、多くの識者が以下のように論じているようだ。

大統領選挙では「国の存亡の危機」を認めて、エルドアン氏に投票した支持者らも、国政とは次元の異なる地方選挙で「経済的な困窮」を訴えるため、支持を取りやめたのだという。

こういった国政と地方行政の違いは、CHP支持者の動向にも反映していたかもしれない。昨年は、CHPが分離独立を主張するクルド系政党と手を組んだことに対して、激しい非難の声が上がっていたが、今回はそれほどでもなかったようである。

しかし、大都市で「祖国のために」といった感情が薄れて行くのは何処にでも見られる様相じゃないだろうか? 例えば、日本でも東京や大阪出身の自衛官の比率はかなり低いような気がする。

「祖国のために」という感情は、家父長的・保守的な傾向とも関連があるのではないかと思う。トルコの場合、これにイスラムの信仰も密接に関わっているだろう。

トルコでは、80年代以降、産業化の進展と共に地方の保守的な人たちが大都市へ押し寄せ、彼らの支持によってエルドアン氏がイスタンブールの市長に当選し、その後、大統領にまで上り詰めたのだと言われている。

ところが、上記の駄文でも明らかにしたように、大都市で生まれ育った世代には、保守的な両親とは異なる世界観が見られるようになった。そのため、エルドアン大統領も今や大都市より地方の支持により、その地位を維持する状況になっているのかもしれない。

問題は、イスラムの信仰云々はともかく、かつては政教分離主義の守護者のように思われていたトルコ軍(あるいは国家)も、欧米の支援を受けているテロ組織と戦うために、家父長的・保守的な思想に基づく兵士らの「祖国愛」を必要としている所じゃないだろうか。これはなかなか難しい問題であるかもしれない。


 

トルコの地方行政府

日本では、リニア新幹線のトンネルの工事が静岡県の許可を得られないために止まっているけれど、トルコの各地方行政府にも同様の権限はあるのだろうか?

調べてみないと解らないが、トルコの地方行政府では、民選の知事・市長と共に「ヴァーリ(Vali)」という官選の知事が行政を担っているので、国の事業を差し止めることなど出来ないような気がする。

警察等はヴァーリの支配下にあり、民選の知事・市長の権限はそれほど大きなものではない。これでは「地方自治」と言えないかもしれないが、南東部には公然と分離独立を主張する民選の知事もいるため、なかなか難しい問題ではないかと思う。

そもそも、南東部では、多くの民選の知事がテロ組織に加担した嫌疑により解任され、国から任命された「カユム(Kayyum)」と呼ばれる行政官が知事職を代行していた。要するに、「ヴァーリ(Vali)」と「カユム(Kayyum)」により、地方自治は完全に停止した状態だった。

今回当選した各知事にも今後の動きによっては同様に解任されるリスクがある。果たしてどうなるだろう?

これぐらいだから、「発展の道」といった国家プロジェクトに支障をきたす可能性は殆どないと言えそうである。

しかも、「発展の道」のトルコ側の起点となるシュルナク県では、与党AKPの知事が当選している。シュルナク県で進められている石油採掘事業にも問題は生じないだろう。

AKPは南東部でかなり健闘していた。分離独立に反対するクルド人の票が相当数AKPに流れたと思われる。こちらでは、「国土の不可分の統一」が西部の大都市より、一層意識されていたのかもしれない。

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トルコの地方選挙~与党の敗北

トルコの地方選挙は与党AKPの惨敗に終わった。注目されていたイスタンブールで市長の座を取り戻せなかったばかりか、全国の得票率でもCHPを下回ってしまった。

投票率が非常に低かった(それでも78%!)ため、昨年の大統領選でエルドアン氏を支持した人たちが棄権したのではないかと論じられていて、これが敗北の大きな要因であると言われている。(もっとも、昨年の大統領選挙でも、イスタンブールアンカラではCHPのクルチダルオール候補が勝っていた)

選挙戦中に、現職イマムオール市長の不正疑惑が取り沙汰され、多少は影響を及ぼすかと思われたが、これは何の効き目もなかったらしい。多くの有権者が、突然暴露された映像記録と司法の早い動きに国策捜査的なものを見ていたかもしれない。

AKPは、軍や司法を中心とする国家体制に対抗して民主化を進めたかのように喧伝されて来たので、元来のAKP支持者もこれを不愉快に感じたとしても不思議ではなさそうである。

ジャーナリストのルシェン・チャクル氏は、選挙前、「AKPは、『dava (訴訟)partisi(政党)』だったが、もう何も訴えるものがない」と論じていた。つまり、「国家に対して訴えを起こす政党だったが、その特質を失っている」という意味で述べたのではないかと思う。確かに、今や国家の側で、訴訟を受ける立場に回ってしまったかのようだ。

しかし、元AKP閣僚のエルカン・ムムジュ氏が明らかにした「2007年、エルドアンは次期大統領になることでビュユックアヌト参謀長官と了解し合っていた」という話が事実であれば、エルドアン氏は、もともと国家体制と対立するような立場にいなかったのだろう。

私には、トルコが国家として、イスラムや民族の問題の解決を模索してきたように思われてならない。そのためにも、選挙で勝ち続けてくれるエルドアン氏は有難い存在だったのではないだろうか?

トルコは、今、軍がテロ組織PKKの壊滅に迫り、「発展の道」といった大きな国家プロジェクトを進めている。AKPの敗北は、こういったプロジェクトに支障をきたさないかと国家体制の中枢は嘆いているかもしれない。私も少なからず残念に感じている。

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平壌冷麺と北朝鮮のテロ

今日から4月、3月は嘘のように寒かったが、4月は平年並みの暖かさになるそうだ。既に先週の金曜日から気温は急に上がっている。4月中も上昇を続け、ゴールデンウイークには初夏のような陽気になるのではないかと思う。いよいよ冷麺の美味しくなる季節がやってくる。

最近、ソウルの冷麺の有名店が日本へ上陸したという。なんでも北朝鮮の出身者がソウルで立ち上げた店らしい。「本場の平壌冷麺」を謳い文句にしている。

東京や大阪では、他にも「平壌冷麺」を看板に掲げた店が現れたようである。ちょっとした平壌ブームの到来かもしれない。

ところで、これだけ日本の世論が「平壌平壌!」と騒いでいるのを、平壌の主、あの金正恩総書記が黙って静観しているなんてことが有りえるだろうか?

もちろん、そんなわけがない。朝鮮労働党の関係者から伝えられた情報によれば、あの平壌の名店「玉流館」の日本進出が総書記の鶴の一声で決定されたという。

総書記は「日本の人民に玉流館の冷麺を食べさせて平壌の偉大さを知らしめなければならない」と命じたそうである。

総書記の指令には続きがあり、「豊かな朝鮮の料理を貧しい日本の人民たちも味わえるようにしろ!」と叱咤された労働党幹部らは、朝鮮の味覚をご飯の上に盛り合わせた「ビビンバよりも安くて美味しい丼」を考案し、「テポ丼」と名付けて、日本でのチェーン展開を計画している。

何処にも命中しないミサイル「テポドン」を打ち上げるより、確実に日本人民の心をとろかしてしまう「美味」を打ち込んだ方が効果的である。どうやら、金正恩総書記もこれに気がついたらしい。

これまで噂されてきた「北朝鮮のテロ」などよりも遥かに効き目も確かな「飯テロ」が日本の各地で勃発するのだ。

先月、モスクワでは恐ろしいテロにより多くの方が亡くなったけれど、願わくは、ロシアも報復を「飯テロ」で敢行してもらいたい。

ロシアが報復に「ピロシキ弾」を打ち込めば、ウクライナも「ボルシチ弾」で応戦する。これで良いではないか! 「飯テロ」万歳!


 

姫路城を見る最高のスポット

今日は、何処か高砂加古川辺りにある桜の名所にでも出かけて見ようと思っていたが止めにした。昨日、配送のトラックを走らせながら沿道の桜に注意してみたけれど、まだつぼみの段階である所が多かった。今年は3月中に寒い日が続いたため、開花が相当遅れているらしい。

それで姫路に出たが、目標は姫路城の桜ではなく、その西北にある「男山」という小高い丘だった。

姫路城の周囲は、多くの観光客で賑わっていたものの、案の定、桜はようやく所々花が開き始めた程度で、お花見という雰囲気は感じられなかった。

男山は姫路城の裏手から歩いて直ぐの所にあるが、ここまで来る観光客は少なく、展望台もひっそりとしていた。しかし、展望台からの眺めは素晴らしく、姫路城を見るための最高のスポットじゃないかと思った。

今まで来たことがなかった私もそうだが、姫路城を見物して、ここを訪れない人は非常に残念であるとしか言いようがない。

展望台では、フランスから来たという男が2人、もの凄いカメラを構えて写真を撮りまくっていた。私のスマホでも姫路城を背景に撮ってもらった。他に何人もいなかったので、彼らだけがやたらに目立っていたけれど、おそらく何処のガイドブックでも男山は紹介されているのだろう。姫路に来たら、是非、訪れてもらいたい。

 

近づくトルコの地方選挙

トルコでは3月31日に地方選挙が行われる。

この選挙で最も注目されているのは、「イスタンブール市長の座をCHP(共和人民党)の現職イマムオール氏が守るのか、対立候補に元閣僚のクルム氏を抜擢した政権与党AKPがその座を取り戻すのか」だろう。

CHPは、昨年の大統領選挙と同様、分離独立を主張するクルド系市民やこれを容認する政党と共闘を組んでいるため、与党側はこれを激しく非難して、この市長選にも「国土の不可分の統一」といった議論を持ち込もうとしていた。

「国土の不可分の統一」はアタテュルクが定めた国是であり、これにより「アタテュルクの政党CHP」の支持層を切り崩そうとしているようだが、昨年の大統領選でもこの戦略がどのくらいCHPのコアな支持層に対して効果的だったのかどうかは良く解らない。

西欧的なライフスタイルを好むCHP支持者の中には、南東部地域の如何にも中東風なクルド・アラブ系の人々を嫌がり、「さっさと独立してもらいたい」と思っている人が存外少なくないかもしれないのである。アタテュルク主義を標榜しながら、「国土の不可分の統一」には殆ど関心がなかったりするのだ。

また、イスタンブールは「トルコで最もクルド系国民の多い地域」と言われているくらいなので、CHPの戦略はそれほど的を外していないと考えることもできる。

ところが、選挙を前にして、現職イマムオール氏の周辺では、奇怪な不正疑惑が取り沙汰されて問題になっている。

イマムオール氏に近い人物のオフィスへ、スーツケースで運び込まれた札束を関係者らが数えてテーブルの上に積み上げている場面が防犯カメラの記録から暴露されたのである。

これは2019年12月の記録らしいが、何故、今頃になって暴露されたのか不可解な点が少なくないという。

しかし、既に検察は捜査を始めており、投票日直前になって、一層イマムオール氏に不利となる何かが明らかにされる可能性もある。

いずれにせよ、CHPが今でも「アタテュルクの政党」と言えるのかどうかは解らないけれど、「アタテュルクの国家」が与党側についているのは間違いないように思われる。軍や司法を始めとする国家の中心的な機構もそうだろう。

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トルコとイラクによる「発展の道プロジェクト」

今、トルコで話題になっている大きな国家プロジェクト、一つは「Zengezur Koridoru(ゼンゲズル回廊)」と言われるプロジェクトで、トルコとアゼルバイジャンを道路と鉄道で直結させようというものだが、アルメニアかイランのいずれかを通過しなければならないため、まだ先行きの見通しは立っていないらしい。

一方、トルコの南東部シュルナクから、北イラク~バクダッドを経由してペルシャ湾に至る「Kalkınma Yolu Projesi」は、イラク側とも合意し、いよいよ実現に向けて動き出すそうだ。

「Kalkınma Yolu Projesi」を直訳すれば、「発展の道プロジェクト」あるいは「開発の道プロジェクト」になるんだろうけれど、何か他に巧い言い方はないものかと思う。

プロジェクトは、道路と鉄道に合わせてパイプラインと通信回線も敷設し、トルコ側からさらに西欧へ至る構想であるという。何だか高校の歴史授業で学んだ「3B政策」を思い出してしまう。

ドイツ帝国の「3B政策」には、英国が猛烈に反発し、第一次世界大戦でドイツが破れると、その計画も消滅して実現されることはなかった。

今回のトルコのプロジェクトでは、米国による妨害が懸念されているらしい。

しかし、ほんの数年前ですら、懸念も何も「米国の承認しないプロジェクト」が同地域で計画されるなんて、とても考えられなかった。

最近は、イラクの首相が唐突に「米軍はイラクから出て行け」と発言したり、トルコがイラクの了解を得て、陸軍によるイラク領内への越境作戦を検討したり、ひと頃は考えも及ばなかったことが起きている。

越境作戦はイラク領内で米軍の支援を受けているテロ組織PKKを壊滅させるためだが、そもそも「PKK」や「IS」といったテロ組織を壊滅させない限り、「発展の道」の実現は難しいかもしれない。

米国に対するトルコとイラクの強気の姿勢には驚くべきものが感じられるものの、かつては米国の忠実な従属国と見られていたサウジアラビアやエジプトも米国から距離を置き始めているようである。

先達ては、エルドアン大統領が12年ぶりにエジプトを訪問したことが話題になっていたけれど、エジプトはシーシー大統領が夫人と共に空港まで出向いてエルドアン大統領夫妻を出迎えるなど、絶大な歓待を見せていた。あれには、米国に対するメッセージも含まれていたのではないだろうか?

サウジアラビアも、何だかあの「カショギ氏暗殺事件」以来、米国への強気な姿勢を強めて来たように思われてならない。

カショギ氏は米国を活動の本拠地にしていたそうだから、米国のエージェント的な要素もあったと仮定してみれば、暗殺に至る経緯とその後の強気な姿勢との関連が理解できるような気もする。

いずれにせよ、中東における米国の存在感が著しく低下して、これまでの常識が通用しなくなっているのは確かじゃないかと思う。