ボクシングの元ミドル級チャンピオン、マービン・ハグラー氏が亡くなったと伝えられている。66歳の若さだった。コロナワクチンを接種した後で急に体調が悪くなったという情報もネットに出回っているけれど、はっきりしたことは解っていないらしい。
私は小学校6年生の頃に、モハメド・アリの試合を観て、ボクシングの魅力に嵌り、ハグラー氏が活躍した80年代までは、その試合の模様を良く観ていたが、91年にトルコへ渡航してからは殆ど観る機会もなくなり、今やヘビー級の現チャンピオンが誰であるのかも解らない状態である。
しかし、アリはもちろんのこと、ハグラーやシュガー・レイ・レナード、ロベルト・デュランの試合は今でもYouTubeで観たりしている。いずれの選手も洗練された動きで美しさが感じられると思う。特にハグラーの動きは芸術と言っても良いのではないだろうか?
90年代に活躍しボクシング史上最高などと謳われたロイ・ジョーンズ・ジュニアの試合はいくつか観たものの、その破天荒な動きは余り美しいと感じられなかった。
フライ級の世界チャンピオンだった海老原博幸氏(1991年没)が、当時、未だ存命でロイ・ジョーンズ・ジュニアの試合を観ていたら何と言っただろう? そのボクシングスタイルを辛辣に批判したのではないだろうか。
海老原氏のボクシングスタイルへの拘りは甚だしかった。テレビで解説しながら、「この選手は右フックを打たないから良い」なんて決めつけたりしていた。
その拘りによれば、オーソドックスの選手(海老原氏はサウスポー)は、必ず左足を前にして構え、そのスタンスを維持しなければならない。右フックを打ったりするとスタンスが崩れてしまうと言うのである。スタンスを保つために右足と左足をロープで結び付けて練習したなんて話も披露していた。
ちょっと記憶にはないが、海老原氏はハグラーのボクシングを絶賛したのではなかったかと思う。多分、ハグラーのスタイルはその美学に適っていただろう。
音楽も一定の規則性が保たれていると心地よく、「美しい」と感じられるけれど、それと同じようなことかもしれない。私には無調性音楽とかさっぱり解らないのである。
ところで、ハグラーのボクシングと言えば、私は新聞の記事で読んだ河本敏夫元通産大臣のエピソードを思い出してしまう。
1982~3年頃、記者が政局の動向を問うため河本邸を訪れたところ、元通産大臣はハグラーの世界タイトル戦に見入っている最中で、そのまま試合が終わるまで記者を待たせ、「これ凄いねえ、ファイトマネーも数億円らしいよ」とか言ったそうである。
記事には、「ボクシングなんて観ている場合か?」という批判が込められていたものの、私はそれ以来「笑わん殿下」が大好きになってしまった。『美しいものが解る人だ!』と思ったのである。