メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

米国の「大中東プロジェクト」は破綻した?

この2002年12月30日付けのインタビュー記事で、退役海軍中将のアッティラ・クヤット氏は、米国によるイラク戦争へトルコも参戦しなければならないと論じていた。 

クヤット氏の主張は、既に決定づけられている参戦へ人々の理解を求めるような調子であり、「米国の意向に逆らえば、トルコの経済は危機に陥る」といった説明にも納得させられた。

それで私は、概ねその主張に賛同しながらこの記事を訳していたのである。今から思えば、愚かだったとしか言いようがない。

しかし、AKP政権は米国に協力的な姿勢を見せていたものの、米軍の国内通過是非を問う議会票決は、AKP党内から離反者が出たために否決されてしまい、トルコは参戦どころか協力も反故にしてしまう。

当時、私は残念に思っていたけれど、おそらくトルコとしてはこれが最善の選択だったに違いない。「党内から離反者が出た不測の事態」という弁明で、米国を必要以上に怒らせることもなかった。

クヤット氏はインタビュー記事の中で、「戦争の原因はサダムでもなければ、化学兵器核兵器でもない。・・・これは、アメリカ国民の繁栄と安全が二度と脅かされることのないよう、中東から極東にかけての地図を書きかえるための戦争である」と語っている。

この「中東の地図を書き換える」という米国の戦略は「大中東プロジェクト」などと呼ばれ、クヤット氏に限らず多くの識者が支持を表明していた。

それはクヤット氏と同様、「米国の意向には逆らえない」ためだったに違いないが、現時点で考えると、多分、「書き換えられる地図」にはトルコも含まれていただろう。

米国は、イラクに続いてシリアとトルコも分割して、自分たちの意のままになる「大クルディスタン」を構想していたようである。

プロジェクトが計画された90年代~2000年にかけては、ロシアもソビエト崩壊の混乱から立ち直っておらず、トルコにもギュレン教団の後押しによって親米的なAKP政権が成立することになっていたので、構想を妨げるものはないと見ていたのではないだろうか?

ギュレン教団を追及しているジャーナリストのネディム・シェネル氏は、「・・・ギュレン教団は既に国家を手中にできる勢力となっていたのだから、“染み込む”という表現は正しくない。染み込んでいたのはエルドアンの方だ・・」などと述べていたが、親米であるはずのAKPに紛れ込んでいたエルドアン氏は、米国にとって大きな誤算の一つだったと言えるかもしれない。

もちろん、最大の誤算はプーチン大統領のロシアだろう。いずれにせよ、米国の「大中東プロジェクト」は既に破綻していると言って良いのではないかと思う。

「プロジェクトを推進していた関係者らも失敗は認めているものの、クルド武装勢力等に相当な投資をしているため、引くに引けなくなってしまった」と多くのトルコの識者が論じている。これでは満州から引くに引けなくなった戦前の日本みたいだ。

損害が大きくなる前に中東から手を引こうとしているトランプ大統領らの判断は、やはり正しいような気がするけれど、果たしてどうなることだろうか?
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