メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

児童性的虐待防止法

「トルコでは児童を強姦しても結婚すれば許される」なんて話が日本にも伝えられているそうだ。もちろん、事実とは異なるが、まったく根拠の無い歪曲というわけでもない。

事の起こりは、結婚年齢に達していない女性の「事実上の夫」が、「児童性的虐待防止法」によって裁かれ服役すると、女性と家族は困難な状況に陥ってしまうため、これを救済する目的で、政府が法案を提出したからである。

例えば、14歳の女子と駆け落ちした17歳の男子は、既に子供が生まれているにも拘わらず、「児童性的虐待防止法」で逮捕され服役中であるという。彼らの年齢は、出産した病院で明らかになってしまったらしい。

そして、同じような例は、全国で3000件に及んでいることから、この法案が準備されたようである。

救済の対象になるのは、「強制、脅迫、計略、および自主性を妨げる状況がなかった場合に限る」と明記され、期限を設けて、現状の3000世帯を救済する一時的な処置である、と政府は弁明に努めている。

また、ミュエッズィンオウル労働社会保障相は、「40代、60代の男性と14歳の女子の間に、親密な情があったとは考えられない」として、そういったカップルも対象から除外されるべきだと示唆している。

しかし、政権寄りの識者の中からも、これを批判する声がでている。一時的に認めてしまうと、二度目、三度目も認めざるを得なくなり、あたかも児童結婚が認められたかのようになる恐れもあるというのである。

とはいえ、こういった救済処置は、野党CHPでも検討されていたそうだし、そもそも「児童性的虐待防止法」を実現させたのは、AKP政権に他ならない。この一件まで、AKPの保守的な傾向に絡めて語られたら堪らないだろう。

トルコ全体における教育水準の向上、産業化の進展といった要件がそろってきたお陰であるのは確かだが、女性の社会進出や高学歴化は、AKP政権以来、一層顕著になったような気もする。スカーフを被った女性の社会進出は、その象徴的な例と言える。

宗教を侮辱する発言を躊躇わない、ラディカルな政教分離主義者の女性教授が、「年齢に達していない女子を結婚させるのは止めよう! 女子にも高等教育を受けさせよう!」と訴えても、信仰に篤い人々は、あまり熱心に耳を傾けなかったに違いない。

しかし、エルドアン大統領夫妻による同様の呼びかけは、一定の効果を得られたのではないかと思う。

アメリカのトランプ政権にも、ひょっとすると、これと似たような展開が期待できるかもしれない。首席戦略官に指名されたスティーブ・バノン氏が、その白人至上主義的な姿勢を崩さないまま、『でも、黒人に暴力をふるうのは止めよう』と言ってくれたら、それはリベラル派の説教より遥かに効果的だろう。

まずは暴力を防ぎ、徐々に差別主義の撤廃に取り組めば良いのではないか?

日本の在日コリアン差別の問題も、差別的な感情を抱いている人たちが、その意識を変えてくれなければ、解決には至らないはずである。リベラルな知識人が、韓国へ謝罪を繰り返したりするのは、彼らの感情を逆なでするだけで、何の効果もないような気がする。