メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

エルドアン大統領のナチス発言

ドイツ政府をナチス呼ばわりしたエルドアン大統領の発言には、支持派の識者の中からも「ナチスが何を意味するのか解っているのか?」という批判の声が上がっている。
昨日、ニュース専門局“CNNトルコ”でインタビューに応じたエルドアン大統領は、これに対して、「彼らが『エルドアンは独裁者だ』と言い続ける限り、私も態度を変えるつもりはない」と強硬な姿勢を崩さなかった。
確かに、2013年頃から執拗に繰り返されてきた「独裁者エルドアン」の大合唱には、私もうんざりしている。
選挙の度に、何とか過半数を得るために汲々としている“独裁者”が何処にいるだろう? 今まで最も高かった得票率は、自身の大統領選挙における52%であり、AKP政権党は、国政選挙で過半数に達したことすらなかった。(2015年11月の選挙では49%)
それでも過半数議席が維持できているのは、AKPのような、体制にとって好ましくない弱小政党の進出を妨げる目的で設けられた「10%の障壁」が、皮肉なことに、AKPの議席数を増やしているからである。
しかし、第一野党CHPの得票率も25%程度に過ぎず、現状、多くの民衆の支持を得ている政党は、AKP以外にない。
また、CHPを支持する知識層が嫌っている「民衆」とは、AKPの支持者らに限らない「イスラム的・保守的な人々」ではないだろうか? だとすれば、その対象は国民の65%ぐらいになるかもしれない。
65%の人々と折り合いを付けられないとしたら、国を治めるのは非常に難しいような気もする。
そんなわけで、私も、トルコが政治的な安定を維持するために、国民投票憲法改正が可決された方が良いのではないかと考えている。
しかし、MHPの協力があるとはいえ、AKPはこれまでの選挙と同様、今回もそう簡単には乗り切れそうもない。AKPが楽な選挙を戦ったことなど一度もなかった。
それなのに、欧米のメディアが「エルドアン人気に陰り」などと報じているのは、彼らが以前のように、エルドアンを支持しなくなっただけじゃないかと思う。
“親欧米的なAKP政権”の誕生が喜ばれた2002年の選挙で、AKPが獲得したのは、僅か34%に過ぎなかったのである。
ところで、エルドアン大統領のナチス発言は、数えたら限がないと言われる「失言」の一つだったのだろうか? それとも、外交政策を立案するブレーンも関与しているような「攻撃の手」だったのだろうか?

AKPの創設メンバーであり、後にエルドアン大統領と仲違いして離党したアブドゥルラティフ・シェネル氏は、2ヶ月ぐらい前だったか、「エルドアンが何を言っても気にする必要はない。エルドアンは、発言に世論がどう反応するのか見て、政策を決定しているだけだ」と語っていた。
他にも、「わざと失言して、重要な課題から世間の目を逸らそうとしている」等々、色んな説が囁かれている。
また、外交や経済政策に関して、エルドアン大統領は立案された方針に承認を与えているだけではないかという識者も少なくない。そのため、状況に応じて、柔軟に方針を変えることができるらしい。
最近のトルコの外交姿勢を見ると、なんだか、米英の両新政権と良い関係を築こうとしているようだ。ドイツとは対立も辞さないような雰囲気が感じられるけれど、これは、やはりドイツとぎくしゃくしている米英新政権に呼応した動きであるかもしれない。
こういった識者らの説に従うならば、エルドアン大統領の発言も、まったくの失言ではない可能性が出てくる。果たしてどうなんだろう?


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