メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

エルドアン大統領のカリスマ的な人気

エルドアン大統領ほど毀誉褒貶の激しい人物も珍しい。カリスマ的な人気がある一方、蛇蝎のように嫌う人たちもいる。
どちらかといえば、エルドアン大統領をそれほど好んでいない左派ジャーナリストのメフメット・テズカン氏は、出演したニュース番組で、「クーデターに立ち向かった民衆の多くは、エルドアンを守るために戦ったのだ」と述べていた。
確かに、イエニドアンの街の人たちからは、そんな雰囲気が感じられる。クーデターの夜、抵抗運動に加わった家電修理屋さんたちも、やはりエルドアンを守ろうとしていたのではないか?
しかし、彼らは決してエルドアン大統領を無条件に崇拝しているわけじゃない。完全無欠な指導者というより、自分たちの親しい仲間だと思っているような気配さえある。
例えば、昨年11月の選挙後、家電修理屋さんは、エルドアン大統領を気軽に「ターイプ」とファーストネームで呼びながら、クルド和平の失敗について咎めていた。
「あれはターイプの重大な過失だった。我らがターイプだから、一度の過ちは許すが、今度またクルド人たちに譲歩するようなことがあったら、もう許さない。我々は二度とAKPには投票しないだろう」
ひょっとすると、彼らにとって“我らがターイプ”は自分たちそのものであるかもしれない。だから、クーデターに対してエルドアンを守るというのは、即ち自分たちを守るためなのだろう。
困ったことに、エルドアンを蛇蝎のように嫌うインテリ層は、おそらくこの家電修理屋さんのような人たちに対しても嫌悪感を懐いている。彼らが社会の底辺で静かにしていた頃は良かったが、政権党を支持する“多数派の国民”として偉そうな態度に出るのは許せなかったようだ。
信心深くて如何にも中東っぽい彼らが、トルコの社会で目立ってきたのは非常に嘆かわしい。トルコ人はもっとモダンで洒落ていなければならないのに、西欧の人たちから、「あれこそトルコ人だ」と思われたのでは、恥ずかしくて堪らない。ターイプ・エルドアンに至ってはまさしく悪夢である・・・。
“多数派の国民”たちは、もちろんこういったインテリ層の視線に昔から気が付いていた。そして、『あいつらは、俺たちやターイプを見下しているんだ』と秘かに恨んで来たのだと思う。
クーデター事件以降は、こういった様相にも変化が見られる。メフメット・テズカン氏は、「クーデターに立ち向かった民衆の多くは、エルドアンを守るために戦ったのだ」と言いながら、勇敢に戦った人々を称賛していたのである。
トルコの民衆への評価は高まり、西欧に対しては少し呆れているのかもしれない。反エルドアン的な識者の中からも、西欧が繰り返す“独裁”などという非難に、不快感を表す声が出始めている。
エルドアン大統領は、企業で例えるなら“ワンマン社長”に違いないが、自分に反対する者を許さない狭量な“経営者”であるようには思えない。
AKPの議員で、党のスポークスマン的な存在であるメフメット・メティネル氏は、2011年頃だったか、当時のエルドアン首相に対して、「クルド問題に対する態度が民主的じゃない」とか「トルコを統治するだけの知性も政治的な蓄積もない」などと強烈な批判を浴びせていたけれど、党から追われたりすることもなかった。↓

やはり、2011年頃だが、当時のエルドアン首相は、ルム(トルコ在住のギリシャ人)の問題に取り組みながら、アテネで「国外のイスタンブールのルム国際協会」の会長であるニコラス・ウズンオウル氏と会談したという。
ニコラス・ウズンオウル氏によれば、国外への移住を余儀なくされた12万人のルムが、トルコへの帰還を希望しているらしい。これに対してエルドアン首相(当時)は、以下のように答えたそうである。
「貴方たちはトルコの人です。トルコ共和国の同胞です。望むなら、いつでも戻って来られます。そして、戻って来るべきです」
ルムの人たちが、イスタンブールへ戻ってくれば、文化的な多様性も豊かになり、長期的には理解を得られると思うが、この発言は、野党ばかりか支持基盤からも反発を買いかねない。
エルドアン首相が、短期的な党利党略だけを考えている人だったら、絶対にこんな危険を冒すはずがない。私はそこに政治家としての良心を感じた。↓

とはいえ、エルドアン大統領は、外国語が話せるわけでもなく、外交政策の多くは、ブレーンの立案に承認を与えているだけのような気もする。それでも、必ず矢面に立ち、政策が失敗しても、決してブレーンの所為にしたりしない。
こういったブレーンを守り、同志を裏切らない姿勢が、絶対的な信頼に繋がり、「AKPはエルドアンの党」と言われる所以だと多くの識者が指摘している。
ところが、ギュレン教団の問題では、いよいよエルドアン大統領も、長年の同志と手を切らなければならなくなる局面が訪れるのではないかという声が高まって来た。
ギュレン教団との関係が取り沙汰される人物は、エルドアン大統領の身近にも存在しているからだ。果たして、情の人エルドアンが、どういう決断を下すことになるのか注目が集まっているという。