メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

政界の御意見番?

憲法改正の要点となっている「大統領制」に、第一野党のCHPは、もちろん強く反対している。
しかし、前党首のデニズ・バイカル氏は、保守派の論客アヴニ・オズギュレル氏のインタビューに答えて、フランスでは、大統領の権限強化に反対したミッテランが、その後、自ら大統領になった例を挙げながら、「大統領制」に満更でもないような見解を述べたという。
これが記事になると、「そんなことは話していない」とバイカル氏は抗議し、「発言は録音してある」とオズギュレル氏が応酬するなど、暫くもめていたが、実際のところ、トルコでも政権交代を容易にするのは、この「大統領制」であるかもしれない。
例えば、エルドアン氏が1回目の投票で過半数を得られなかった場合、決選投票では、対立候補に反エルドアン票が集まってしまうからである。
そのため、現状維持を望む声が支持者からも出ているそうだが、エルドアン氏は何事もリスクを承知で挑むのが好きな性格らしい。
一方、バイカル氏は、まだ改正案が議会を通っていなかった昨年の末、テレビで3時間を越えるロングインタビューに応じて、大統領制反対の主張を繰り返していた。
和解が何よりも必要な現状を顧みようともせず、国論を二分する改正案などはもってのほかであると断じて、改正案が議会で否決されるなら、「これはターイプさん(エルドアン)のためにもなるだろう」と言うのである。
「ターイプさんは、これに気がついていないかもしれない。いつも事態が悪化してから気がついて、『我々は間違ってしまった』と慌てて処置しようとするじゃないか」と、バイカル氏は穏やかにエルドアン大統領を批判していたけれど、何だか自分の意見が聞き入れられなかったことに苛立っているようにも見えた。
イカル氏には、2003年2月、アメリカ軍の国内通過の是非について、当時、まだ政治経験に乏しかったエルドアン氏から意見を求められて以来、様々な局面で密かにアドバイスを送っていたのではないかという噂もある。

AKPが初めて過半数議席を取れなかった「2015年6月の国政選挙」の後にも、バイカル氏は、大統領になっていたエルドアン氏から公に要請されて、意見を述べに官邸を訪れている。
ロングインタビューでは、その時の意見の内容も明らかにしていた。バイカル氏は、CHP、あるいはMHPとの連立を勧め、エルドアン大統領は別れ際に、「試してみましょう」と応じたらしい。
ところが、連立は実現せず、約5ヶ月後の再選挙で、AKPは過半数議席を取り戻した。
そして、今回の憲法改正では、まずMHPのバフチェリ党首によってこれが提議され、AKPとMHPが協力し合う形で改正案が作られたため、今になって連立が実現したのではないかと錯覚してしまいそうである。
69歳になるバフチェリ党首も、78歳のバイカル氏ほどではないにせよ、非常に老練な政治家として知られている。しかも、エルドアン氏(62歳)のようなアウトサイダーとは異なり、バイカル氏のCHPと同様、以前から軍部や司法にも影響力を持っていたとされるMHPの党首を長年に亘って務めて来た人物である。
また、昨年の11月、バイカル氏は、逮捕されたクルド系政治家アフメット・テュルク氏のために奔走したが、何ら成果は得られなかった。これに対し、2週間ほど前、バフチェリ党首が、「老齢のテュルク氏の裁判は、非拘束で行うべきだ」と発言したところ、拘束は解かれなかったものの、直ぐに一定の改善が図られたという。
MHPは、トルコ民族主義を前面に打ち出した政党であり、バフチェリ党首も、AKPの「クルド和平プロセス」を厳しく批判してきた。このバフチェリ党首が、テュルク氏に手を差し伸べたため、社会的な反響も一層大きかったと言われている。
なんだか、バフチェリ党首の前でバイカル氏は、「政界の御意見番」としての立場を完全に失ってしまったかのように見える。

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