メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

トルコ軍の越境/クーデター事件がもたらした協調・和解ムード

(8月25日)

昨日(8月24日)の未明、トルコ軍はシリアとの国境を越えて、自由シリア軍と共に、ISの勢力下にあったジャラブルスへ進撃した。

ISは、YPGを中心とするクルド勢力によって、要衝地のメムビチを追われ、さらにトルコ国境に近いジャラブルスへ逃げ込んでいたらしい。トルコとしては、国境の安全を確保するのはもちろん、ジャラブルスがクルド勢力の手に渡るのを防ぎたかったようである。

作戦は、米空軍機の協力もあって、一日で終了した。この作戦には、ISへ地上から攻撃を加えたいアメリカの要望に応えながら、PYD-YPGの勢力拡大を阻止したいトルコ側の要求をアメリカに認めさせる狙いもあったという。

実際、24日にトルコを訪れたバイデン副大統領は、PYD-YPGがユーフラテス川西岸まで勢力を伸ばそうとするなら、彼らへの支援を打ち切ると明言している。

シリア問題の解決で最も重要な主役がアメリカである現実は変わっていないのだろう。トルコもアメリカとの関係は悪化させたくないに違いない。

23日には、北イラククルド自治政府のバルザーニ大統領もトルコを訪れている。ジャーナリストのルシェン・チャクル氏によれば、弱い立場に置かれている双方の政権が、お互いの協力を必要としているらしい。

クルド自治政府のバルザーニ政権は、PKKとPYDに近い野党勢力を牽制するために協力が必要であり、トルコのエルドアン大統領とAKP政権は、クーデター事件以後の混乱を、野党と協調しながら切り抜けなければならず、国内でそれほど強い立場がない、外交面ではクルド自治政府が唯一の信頼できる友邦と言えるような状況である・・・。

確かに、海外での報道とは異なり、クーデター事件がエルドアン大統領とAKP政権にとっても相当な打撃であったのは間違いないだろう。この難局を打開するために、拠り所となるのは、国民と民主主義以外にない。

エルドアン大統領は、与野3党が一堂に会した「民主主義と犠牲者のための大集会」(8月7日)を実現させるため、自らCHPのクルチダルオウル党首に何度も出席を要請したという。犬猿の仲だった弁護士連盟のフェイズィオウル会長とも劇的な和解を果たしている。

また、大統領自身が原告となっていた訴訟の多くを、クーデター事件以後の社会的な和解の観点から、大統領は取り下げている。

そもそも、大統領が自ら野党政治家やジャーナリストらを告訴するというのは、どう考えても異常な事態だった。しかし、今から振り返れば、こういうカードを切るための余地を残して置いたとも理解できる。

中には、大統領自ら告訴せずとも、刑事事件として起訴できそうな件があったらしいけれど、そうなっていれば、このカードは切れなかった・・・。

いくらなんでも、これでは親エルドアン派の理屈のように思えてしまうが、現在、AKP政権は、「PKKとの断交」を条件に、クルド系政党HDPとの和解も模索しているから、エルドアン大統領は、ここでもHDP議員に対する訴訟を取り下げるという“カード”が使えることになる。

HDPの側にも歩み寄りの姿勢はうかがえる。彼らにしたって、PKKとの縁を切らなければ、支持者のクルド人民衆から愛想をつかされてしまう状況じゃないだろうか?

こうして協調と和解のムードが長く続くように祈りたい。