メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

ユンエの結婚式・続き

ユンエで、“クナ・ゲジェスィ”が終わると、ネヴザットさんの家ではなく、近所に新築された豪華マンションの一室に泊まった。そこの住人は、大学教授の家族だそうだが、この日は何処かへ休暇に出かけていて留守だった。
2日ほど留守にするだけなのに、鍵をネヴザットさんに預けて、『どうぞ、来客用に使って下さい』というのも凄い近所付き合いだと思った。新築とはいえ、その家族が既に1ヵ月ぐらい住んでいるらしく、ダイニングや寝室にもちゃんと生活臭が漂っていた。
そこに泊まったのは、私とネヴザットさん、オクタイさんの3人。ネヴザットさんの家は、女性の来客たちで占拠されてしまったからである。オクタイさんは、ゾングルダクから、奥さんと9歳ぐらいの息子を連れて来ていたけれど、奥さんと息子は、その“女性の園”に泊まったようだ。
“クナ・ゲジェスィ”が終わったのは、夜12時過ぎで、とにかく寝るだけに使わせてもらったから、静かに入り込んで、朝起きると、3人揃って静かに退去した。
“女性の園”の方は、多分、夜中も暫く賑やかにやっていただろう。“クナ・ゲジェスィ”は、本来、女性だけが集まって、新婦を祝福する行事だったのが、近年は、新婦側の男性の縁者ばかりか、新郎側も加わるようになってしまったらしい。“女性の園”こそ、その本来の姿である。
私は、クズルック村でも、女性たちが非常に強いように感じていたけれど、これは黒海地方やコーカサス地方の一部に見られる伝統なのだろうか。クズルック村も、黒海地方のトラブゾン県やコーカサス地方からの移民が多かった。

ネヴザットさんの所では、奥さんのセヴィライさんのお母さんが、一族郎党を取り仕切っているような気がする。御主人が亡くなられて以来かもしれないが、あの老婦人には、そういう力が備わっているのではないかと思う。
しかし、よくトルコのテレビ・ドラマに、一族を牛耳る恐い姑さんが出てきたりするけれど、決してあんな感じじゃない。いつもにこやかに慈愛に満ちた眼差しを向けてくれる。それでいて何処と無く威厳がある。もう80歳を越えているだろうに、頭脳明晰、まったくボケたところがない。
2年前、長男の結婚式に訪れた時、ネヴザットさんが私を紹介しようとしたら、「いつだったか、犠牲祭にも来ていたじゃないか」と、その12年前の出来事をお忘れになっていなかった。今回も、「おおマコト! 良く来たね」と私の名前を正確に呼んでくれた。
ところが、近年は、足を悪くして、介添えがいないと階段などを上がれなくなってしまい、ちょっと気を弱くされているのかもしれない。結婚式で、孫娘の新婦から抱き寄せられると、何度もハンカチで顔を拭いながら泣いていた。長男の結婚式で、そんな姿は見なかったような気がする。
ネヴザットさん夫婦も、これから寂しくなるだろうし、それほど間隔を空けずに、また訪れることが出来たらと思う。でも、その時は、また老婦人から、「おい、マコト! お前の結婚はいったいいつなんだ?」と訊かれるだろうなあ・・・。 


*写真は、ネヴザットさんの団地の中庭で食べた朝食。

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