メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

日本の少子化~小津安二郎の「彼岸花」

20代前半の頃じゃなかったかと思うけれど、戦前に青春を過ごしたような年配の文化人が、「今の若い者は恋愛もできないのか・・・」などと雑誌に書いているのを読んで、「ご冗談でしょう?」と言いたくなった。 
小津安二郎の映画なんか観ていれば、その世代は皆、お見合いで結婚しているようなイメージさえある。でも、そうではない男女関係もさりげなく描かれていて、あの時代にも、恋愛という妄想をやってのける若者たちがいたらしい。

しかし、いい歳して未だ相手が見つからなければ、周囲が世話してしまうから、恋愛できないボンクラは目立たなかっただけだろう。 
現代はボンクラにとって厳しい。いい歳して相手がみつからないと、「今の若い者は恋愛もできないのか・・・」なんて言われてしまう。 
日本の男たちほど恋愛が下手なのは、世界に余りいないかもしれない。

日本は小津安二郎の映画に描かれている昭和20~30年代に戻らないと、結婚難とか少子化は防げないような気もする。それほど根っからの恋愛下手というか馬鹿正直が多い国民じゃないだろうか。 
小津安二郎の「彼岸花」。冒頭、友人の娘の結婚式で挨拶に立った佐分利信演じる会社重役は、恋愛結婚で羨ましいなどと述べたうえ、「・・・私どもは親の取り決めに従って結婚したまでで、恋愛などという美しいものには全く縁がありませんでした」とか言いながら、隣の田中絹代演じる妻を見やる。この時、田中絹代の妻は、少し“にやっ”と笑ったような感じだ。 
それから、家族で箱根へ出かけた時に、夫婦の間で交わされる会話は、こんな感じじゃなかったかと思う。 
妻「戦争中、敵の飛行機が来ると、皆で急いで防空壕へ駆け込んだわね。・・〈中略〉・・真っ暗な中で親子4人このまま死んでしまうのかと思ったことあったじゃない、貴方、覚えていない?」 
夫「ああ、そんなこともあったね」 
妻「戦争は嫌だったけれど、ふとあの頃が懐かしくなるの。貴方はない?」 
夫「ないね。俺はあの頃が一番嫌だった。物はないし、つまらない奴が威張っていたしね」 
妻「でも、私は良かった。あの時ほど家族が一緒になれたことないもん」 
最後の台詞、田中絹代がそれこそ燃えるような眼差しで佐分利信を見つめながら語っている。あらためて観ると、あの場面は、夫は全く気がついていなかったけれど、妻は充分に恋愛という美しいものを感じていた、ということだったのかもしれない。 
それで、田中絹代の妻は、佐分利信が頑固に反対しても、恋愛して相手を見つけてきた娘を支援する。恋愛を知っているから・・・。佐分利信の親父は、スーパー鈍感男ってところだが、あれも日本人男の一典型ではないだろうか。しょうもないねえ、日本の男たちは。少子化になるはずだ。