メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

小津安二郎の生誕と命日

「12月」は、その作品を親しんで来た人たちの命日が多い月なのかもしれない。5日はモーツァルト、8日がジョン・レノンで9日は夏目漱石、そして今日、12月12日には小津安二郎が亡くなっている。

ジョン・レノンは訃報をリアルタイムで聞いて、かなりショックを受けた記憶があるけれど、その命日までは覚えていなかった。真珠湾攻撃の日だったのである。

私にとって「ビートルズ」とは即ちポール・マッカートニーのことであり、ジョン・レノンの作品はもう長い間聴いていなかった所為もあるだろうか。

もちろん、モーツァルト夏目漱石の命日がいつであるかも知っていたわけじゃない。

モーツァルトがクリスマス前の寒い日に死んだという話だけ頭の片隅に残っていて、調べて見たら「12月5日」だったので、当日に以下の駄文を再録してから、12月に亡くなった人たちを検索してみたのだ。

モーツァルトが未だ35歳の若さだったのは良く知られているけれど、ジョン・レノン40歳、夏目漱石49歳というのも早過ぎである。

そして、小津安二郎は60歳還暦の日に亡くなった。いずれも、現在の私より長く生きていない。私は還暦から既に半年も生き永らえている。なんと無駄に長生きしてしまったのだろう。

今年の5月、西成に行って、今池近くのアーケード街で「男の美学」という落書きを見た。そこに「60代70代は男で死にたい」と記されている。ここに名を挙げた人たちが、皆、男らしく死んで行ったのは間違いない。

この人たちのように壮絶な死を遂げる必要はないかもしれないが、私の半生は余りにも軽薄で悲しくなる。

小津安二郎の映画は、20代の頃に「晩春」を観て『なんて退屈な映画なんだ!』と思ったのが最初である。

それから、30代になって「東京物語」を観た時は、多少印象に残ったものの、「感動」と言うにはほど遠かった。

イスタンブールにいた時分、他の作品と共にYouTubeで何度か繰り返し観ている内に、しみじみと印象が深まったように思う。

しかし、それは斉藤高順の音楽とセットになっている印象であるかもしれない。だから、「晩春」「麦秋」は今観ても何か足りないように感じてしまう。

とはいえ、その「映像」と「音楽」の美しさにより、一度観て済ませる映画ではなく、繰り返し観る作品になっているのは何となく解るような気がする。

汚いものを見せない、整えられた美しい映像にはリアリティが感じられないという評も聞かれるけれど、人間が記憶に留めているのは、そういった美しい印象ではないだろうか。実際に観た汚いものと合わせて追憶する人は余りいないと思う。

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