メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

1997年2月28日の政変/トルコのイスラム

昨日(2月27日)は、2011年に亡くなったネジメッティン・エルバカン元首相の命日だった。
エルバカン氏は、イスラム主義運動“ミッリ・ギョルシュ(国民の思想)”の指導者であり、1996年には、イスラム主義政党RP(福祉党)を率いて首相に就任した。今のエルドアン大統領らの師でもある。
そして、今日(2月28日)は、1997年にエルバカン氏が、軍部によって首相の座から引きずり降ろされた「2月28日の政変」の19周年になるという。
この両日が、今年は週末と重なったため、おそらくイスラム主義運動に纏わる様々なイベントが催されていただろう。
今、振り返ってみると、私が初めてトルコにやって来た1991年の頃には、日本でも「政教分離主義とイスラム主義の対決」が話題になっていて、トルコの政教分離義体制もイランのような「イスラム革命」により覆されるのではないかと「期待」されていたらしい。
そういう話題に、私は殆ど興味もなかったが、当時、トルコに来ていた日本人の中には、「イスラム革命を実地で見聞したい」と希望を語っていた人もいる。
その後、トルコは「1997年2月28日の政変」を経て、2002年には、エルバカン氏と袂を分ったエルドアン現大統領のAKPが政権につき、『いよいよイスラム革命か?』と騒がれたりもしたけれど、結局、この「政教分離主義とイスラム主義の対決」は、玉虫色決着のまま済んでしまいそうだ。
そして、この辺りに、なんでも巧くバランスを取って柔軟に解決してしまうトルコの人たちの“俗っぽさ”が表れているような気もする。
私には、比較する対象が韓国の人たちぐらいしかないけれど、なんとなくトルコの方が日本人の感覚に近いと思う。何か断る時の曖昧な言い方であるとか、我々はお互いに良く似ている。
おそらく、あの文化大革命をやってのけてしまう中国の人たちとも、大分違うのではないか。トルコの人たちには、日本人のような柔らかさを感じる。だからこそ、偉大な文明であるとか、華々しい文化は、生まれ難いのかもしれない。
その代わり、様々な文明を学んで発展させたり、折衷したりするのは、やはり巧みなのではないだろうか。
上記でもお伝えしたけれど、イスタンブール大学神学部のエクレム・デミルリ教授は、“KADRAJ”というテレビ番組で、次のように語っていた。
「16~7世紀以降、ヨーロッパは変化を遂げ、世界が変わった。一部の人たちによれば、イスラムはその変化に合わせる必要がなかった。しかし、私は必要だったと思う。イスラムと言わなくても、ムスリムの社会はその変化に合わせていかなければならなかった・・・」
しかし、19世紀以降に遅れはしたが、トルコは、イスラム文明の中でいち早く、ヨーロッパに合わせて変革を遂げることができた。この辺りも日本に良く似ていると思う。
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トルコの宗務庁は、2012年の夏から、宗教専門のテレビ放送を始めている。これはネット上で以下のサイトからも視聴することが可能だ。

私も昨年の12月以来、時々、このサイトや“YouTube”から、宗務庁の番組を覗いているけれど、難しくて退屈な話が多いから、余り最後まで見続けたことがない。
昨年の5月に放送された“Genc Ilahiyat”という番組では、宗務庁のメフメット・ギョルメズ長官が母校でもあるアンカラ大学神学部を訪れて講演し、学生たちの質問に答えている。ギョルメズ長官は、いつもの見慣れた法衣姿ではなく背広姿である。宗務庁の長官として講演しているのではないかららしい。
これも“YouTube”で見つけて、所々聞いてみただけで、全て視聴したわけじゃないが、最後の質問に答えたギョルメズ長官の発言がとても興味深く思えた。
「・・・しかし今日の生活に関わる問いの答えを求めて、常に4~10世紀前に遡り、その時代に答えが用意されていたかのように語ったり、真理が初期の2~3世代に独占されるのを認めて、彼らが理解したことは正しく、彼らが理解しなかったこと、語らなかったことは、今日において正しくないと言うのであれば、シリアの山野で“ダエッシュ(IS)”などと呼ばれたり、サラフィーであるとか他の名で呼ばれたりする、イスラム文明とは異なる概念と向き合わなければならなくなってしまう」(拙訳)
これには、エクレム・デミルリ教授の発言とも共通したところが多く感じられる。現在のトルコのイスラム学界の主流がどの辺りにあるのか示しているような気もする。
また、参加している女学生の殆どがスカーフを被っているのは、なにしろ神学部の学生たちであるから致し方ないと思う。女子と男子もほぼ別れて座っているようだが、隣り合っている所もある。
なにより女学生の多さに驚いてしまう。おそらく、20年~30年後は、トルコのイスラム学界を彼女たちが率いて行くことになるのだろう。
メフメット・ギョルメズ宗務庁長官のアンカラ大学神学部における講演(トルコ語


Genç İlahiyat - Prof. Dr. Mehmet Görmez - (Ankara Üniversitesi)