メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

韓国人の団体客


昨日、“オドオドした態度だったから日本人だと思った”なんて言いましたが、実際、そんな態度を取る日本人が少なくないのです。例えば、イスタンブールの街角で東洋人の旅行者が日本語のガイドブックを広げているから、躊躇わずに日本語で声を掛けると、脅えたような表情で何も言わずに立ち去ってしまったりします。

客引きの類いと思われてしまったのかもしれないけれど、それなら商品の購入等を勧められた時点で断れば良いでしょう。どうも日本の旅行者たちは、断るという行為を苦手としているような気がしてなりません。

16年ぐらい前ですが、土産物屋の客引きをやっているトルコ人に、「なんで日本人ばかりしつこく勧誘するの?」と訊いたら、「日本人は自分から店に入って来ないが、何とかして店に引っ張り込めば、必ず何か買って行ってくれる。アメリカ人などは、自分から店に入って来て、図々しくお茶まで飲んだあげく、何も買わずに出て行ったりする」なんて言ってました。

特にお茶を勧められて飲んでしまったりすると、日本の人たちは『何か買って上げなきゃ悪いだろうか?』と思ってしまうようですが、トルコでは高価な商品を勧める場合、お茶ぐらい出すのは当たり前だから、お茶を飲んでも気に入った商品が見つからなければ、そのまま店を後にすれば良いのです。良心的な店なら気分良く送り出してくれるでしょう。少々剣呑な店でも悪態をつくくらいが関の山で何かするわけじゃありません。

韓国の人たちは、値引き交渉を図々しいくらいやるし、要らなければはっきり断ります。しかし、団体旅行の韓国人たちを見ても、10年ぐらい前に比べて大分お行儀が良くなったというか、パワフルな感じがなくなりました。911が起こり、イスタンブールの観光地がガラガラになった時も、韓国人の団体客だけは来ていて、その恐れを知れないパワーに驚かされたけれど、最近は彼らも少し恐れを知ってしまったのでしょうか。観光名所を歩く際、添乗員が治安上の注意を言い含めたりすれば、ある程度は団体行動を取ってくれるようになったそうです。

93年、まだまだ韓国人の団体客が珍しかった頃、イスタンブールの大学で研究活動を続けながら、団体客が来れば案内役も買って出ていた韓国人の青年学者は、「日本人の団体が羨ましい」と酒の席で溜息をついていました。「日本の人たちは注意事項を良く守ってくれるし、集合時間に遅れたりしないでしょ。韓国人と来たら、バスを降りて注意事項を説明している間に何処かへいなくなってしまい、平気で遅れて来るから、案内するのも大変です」。

私も89年頃に日本で韓国人の団体を何度か引率したことがあるから、その気持ちは良く解ります。団体と言っても普通の観光客じゃなくて、一応、財閥系大企業の研修旅行で来ていた人たちなのに、その規律の無さには唖然とさせられました。

昼、晴海の国際展示場で自由時間にして、バスが出発する前に人員を確認したところ、一人多くなっているのです。数え間違えたかと思って、もう一度数えたけれど、やはり一人多い、『減ることはあっても増えるわけがないよな』と首を捻っていたら、何人かがゲラゲラ笑い出し、「一人多いんでしょ。間違いじゃないですよ。ここに一人余計なのが乗っているから。この男も同じ財閥系の別会社でね。やはり研修旅行で展示場に来ていたんだが、彼のバスはもう行ってしまったそうですよ。可哀想だから、今日一日、私たちのグループに混ぜてやって下さい。夜、ホテルに着いたら、後はタクシーで自分が泊まることになっているホテルへ行ってもらいましょう」などと言います。

グループの代表者も「まあ、良いじゃないですか。経費が掛かればうちで払いますよ」と笑って済まそうとするので、追い出すわけにも行かず、そのまま連れて行くことにしたものの、夕食の予約を一人増やさなければなりません。面倒なことになりそうだ思いながら、次の目的地である霞ヶ関ビルへ向かい、予定通りに見学を終らせてバスへ戻り、人員を確認すると、今度は一人減って数が合っています。

「あれ? さきほどの方は?」と言ったら、また何人かゲラゲラ笑い出して、「彼ならここにいますよー。今度はね、うちのグループから一人いなくなっているんですよ。このビルに同じ財閥系の支社が入っているでしょ。そこに友達がいたらしくて、今日は夕食を一緒に食べてからホテルに戻るって言ってました」という次第。夕食の予約を増やす必要もなくなり、無事に一件落着しました。