メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

「君はそれを日本でやるのか?」

先日、“YouTube”で、日本のニュース番組のリポートを見た。いつ放送されたものか明らかにされていないが、昨年の夏辺りじゃないかと思う。
盆休みで人出が減っている深夜の渋谷や新宿に、外国人観光客らの姿が目立っているというリポートだった。
画面に、コンビニの前でビールや酒を飲みながら屯している欧米系の人たちが映し出され、マイクを向けられたイギリス人の青年は、「酔いたいからここへ来た」と陽気に答えていた。
どうやら、深夜に所かまわず酔いの回るまで酒が飲める日本は、彼らにとって非常に居心地が良いらしい。
番組での説明によれば、路上飲酒が禁じられているニューヨークを始め、多くの国ではモラル的にも往来で酔っ払うのはもってのほかであるという。
また、ヨーロッパでは何処でも店仕舞いする時間が早く、こんなに夜遅くまで飲み歩いたり出来ないそうだ。
そういう話は、イスタンブールでも何度か聞いたことがある。ドイツなどから来た人たちは、深夜まで賑わうイスタンブールの繁華街に驚いたりする。そして中には、その繁華街の路上で缶ビールを飲む欧米人もいる。
とはいえ、自国でモラルに反する行為を他国へ来てやるのは如何なものかと思う。
もちろん日本では、お花見の季節みたいに羽目を外しても許される場合があるし、普段でも、ベンチに座って飲むとか、酔っ払って繁華街を歩くぐらいなら、それほど嫌がられないはずだ。
でも、コンビニの前で飲みながら屯しているのは、ちょっと顰蹙を買うかもしれない。それに、屯しているのが欧米系ではなくて、中国の人たちだったとしても、番組における扱い方は変わらなかっただろうか?
これがイスタンブールであれば、多くの国々と同様、モラル的にももってのほかであるどころか、もっと厳しくても不思議ではない。なにしろ、人口の98%は一応イスラム教徒なのだ。
もっとも、ラマダンの真っ最中にも拘わらず、イスタンブールでは深夜まで飲酒可能なレストラン等があり、そこで飲んでいる限りは何も言われない。お客の大半は、一応イスラム教徒のトルコ人である。
しかし、一部のトルコ人たちが路上で飲んでいるからと言って、自国でもモラルに反する、そういった行為に及ぶのは、やはり許されないだろう。
私にも苦い経験がある。1988年の末、1年半に及んだ韓国での留学生活が終わろうとしている頃だった。
在韓華僑の友人とソウルの庶民的な食堂に入り、食事が済んでからも、そこで長々と話し込んでいた。友人は日本で暮らしていたことがあり、日本の社会常識にも詳しい。
私は煙草を吸いながら話していて、店の人がなかなか灰皿を持って来ないことに苛立ち、当時、韓国の人たちもよくやっていたように、未だ片づけられていない醤油皿へ吸殻を突っ込んだ。
そして友人から、「君はそれを日本でやるのか? やらないだろ? それなら韓国でもするな!」と厳しい口調で叱られた。
おそらく彼は、私が知らぬ間に懐いていた日本人としての薄っぺらな優越感を見抜いていたに違いない。私は自分も気がついていなかった心の底を、ポンと目の前に突き出されたように感じて、とても恥ずかしかった。