糖質制限といっても、比較的ゆるいものから、かなり厳しく制限するものまで、色々あるそうだが、極め付けは、ほぼ肉・卵・チーズしか食べない“MEC(ミート・エッグ・チーズ)”と呼ばれるやり方らしい。
これを実践すると、体がブドウ糖の代わりに“ケトン体”なるものをエネルギー源として使うようになり、体質が大きく変わると説明されている。
一度、実験的に試してみたいけれど、トルコでも肉はそれほど安くないから、素寒貧の私には、なかなか手が出ない。それこそ卵とチーズばかりの食事になってしまうかもしれない。
それでも私の場合、昔から毎日同じものを食べ続けても余り苦にはならない質なので、短期間なら何とかなるだろう。
極北のイヌイットやモンゴル高原の遊牧民は、近代に至るまで、殆ど糖質の取れない食生活を続けていたけれど、原野を縦横無尽に駆け巡り、驚くほどエネルギッシュに活動していた。その境地をちょっとだけ覗いてみたい。
モンゴルには、古来、“赤い食べ物”と“白い食べ物”があり、赤いのは肉、白いのは乳製品だそうである。生乳には乳糖が含まれているものの、昔、遊牧民の人たちは、糖がアルコール化されている馬乳酒を日常的に飲み、生乳を飲むことは滅多になかったという。
あとはチーズのような乳製品を食べるだけだから、それは“MEC”と同じくかなり厳格な糖質制限食だったと思う。
しかし、チーズも私が大好きなトルコの白チーズには、ある程度糖質が残っているらしい。今後暫くは、値段も安く、塩分控えめな市販のプロセスチーズを食べることにしよう。
それから問題になるのはヨーグルトである。糖質の含有率は、生乳と殆ど変わらない。今までのように、大量に食べていたら、“MEC”は達成できなくなってしまう。
そこで色々調べてみたところ、どうやらヨーグルトから、糖質が多く含まれる水分を布で濾し切った濃厚な“水切りヨーグルト”なら、少量でもプロティンなど他の成分を確保できることが解った。
ヨーグルトの表面に出来る脂肪膜(カイマク)の量が多い、“タヴァ(平鍋)ヨウルト(ヨーグルト)”というのも売られているけれど、糖質の含有率は若干少ない程度である。
ところで、こうしてヨーグルトについて調べていたら、最近、日本でも“水切りヨーグルト”が市販されるようになり、「ギリシャ・ヨーグルト」と呼ばれているというので、また腹立たしくなってしまった。
ヨーグルトは“ヨウルト”という歴としたトルコ語が語源なのに、まずはブルガリア・ヨーグルトとして認知され、カスピ海ヨーグルトなんていうのも出て来たかと思っていたら、今度はギリシャ・ヨーグルトの登場である。
周辺地域をぐるぐる回って、いったいいつになったら本場のトルコへ辿り着くというのか?
ヨーグルトが「ヨーグルト」の名で世界に知られるようになったのは、19世紀に、「ブルガリアの長寿村で人々が“ヨウルト(ヨーグルト)”という乳製品をたくさん食べていた」という話を生物学者のメチニコフが広めたためらしい。
つまり、当時未だオスマン帝国の影響下にあったブルガリアの人たちは、「ヨーグルト」のことを“ヨウルト(ヨーグルト)”とトルコ語で呼んでいたのだろう。
現在、独立後の「トルコ語排斥運動」を経たブルガリアでは、“ヨーグルト”をブルガリア語で「キセロ・ムリャコ(すっぱい乳)」と表現するそうだ。
ギリシャでは、“ヤウルティ”と言うらしいが、これはトルコ語の“ヨウルト”がギリシャ風に訛っただけじゃないかと思う。