メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

金大中氏

 韓国の金大中元大統領が亡くなりました。“民主化闘争の勇士”といった型通りの表現では捉えきれない“したたかでしなやかな政治家”だったのではないかと思います。

朴正煕氏や全斗煥氏の軍事独裁政権に対して、度重なる弾圧にもひるむことなく果敢に民主化闘争を展開したけれど、人間のタイプとしては、相手の朴正煕氏や全斗煥氏と良く似ていたかもしれません。

いずれも凄まじい権力志向を持ち、強靭な精神力で乱世を闘い抜いた“英雄”ではなかったでしょうか(全斗煥氏は未だ御存命ですが)。
韓国に滞在していた88年、知日派の友人が、「日本の歴史は戦国時代とか明治維新に波乱万丈の物語があって英雄が登場するから面白い。我国の歴史はつまらんよ」と言うので驚いたことがあります。

実際、明治維新はともかくとして、戦国時代の方は、山岡荘八の“徳川家康”の韓国語訳がベストセラーになっていたほどだから、日本の歴史を面白がっていた韓国人は少なくなかったかもしれません。
私に言わせれば、明治維新の英雄でさえ、古ぼけた写真から辛うじて面影を偲ぶことが出来るだけなのに、その頃の韓国では“乱世の英雄たち”を間近に見ることも可能だったから、よっぽど羨ましく思えるくらいでした。

しかし、これは傍観者の戯言に過ぎないでしょう。当時、韓国の人々は未だほとぼりが冷めていない身近な歴史をそう気楽に振り返って見れなかったはずです。
今や金大中氏も亡くなり、韓国の“英雄の時代”も遠い過去になりつつあります。

最近、イスタンブールで大学生ぐらいの若い韓国人観光客の様子を見ていると、随分と線が細くなったような気がしてなりません。この前、友人が経営するゲストハウスで、何だかオドオドした態度の東洋人青年を見かけたから、日本人であると確信して声を掛けたところ、韓国人だったのでがっくり。『貴様、それでも韓国の男か! チョンシンチャリョー(しっかりしろ)!』と叫びたくなりました。
韓国でも“草食系”ならぬ“草食男”なんて言葉が流行っているそうです。

まあ、草食どころか栄養失調気味でフラフラしているこんな腐食中年男に言われたかないだろうけれど、あれでは韓国人の男なのか日本人の男なのか見分けがつかなくなって困ります。かつて私が考案した識別法も有効期限が切れてしまったかもしれません。
その識別法とは、まず椅子に座る姿勢。申しわけなさそうな態度で膝をきちんと合わせて座っていたら日本人。偉そうな態度で股をおっ広げて座っていたら韓国人。

次は雑踏での歩き方で、『すみません、通らせてもらいますよ』という感じで歩くのは日本人、『どけどけ俺様のお通りだ』と兵隊の行進みたいに足を上げて大股に歩くのは韓国人。まあ、つまらない冗談ですが、雑踏での『どけどけ』は大袈裟にしても、兵隊の行進みたいな歩き方は、本当に有効な識別法でした。
99年だったか、夜の11時ぐらいに人通りの絶えたイズミルの街路を歩いていた時に、向こうから胸を張り腕を振って大股で近づいて来る男のモンゴロイド顔が街灯に照らされると、見知らぬ男だったにも拘わらず、その余りの韓国人らしさに何だか嬉しくなり、すれ違いざまに「アンニョンハセヨ!」と挨拶したら、男も喜色満面になって韓国語で話しかけて来ました。

その時は、二言三言言葉を交わしただけで、『また近いうちに何処かで会うだろう』と思って別れたけれど、結局それっきりでした。ちょっと不思議な思い出です。

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