メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

東京ジャーミー(モスク)

東京ジャーミーのキッチンに私を引っ張り込んだトルコ人、当時、既に滞日10年ぐらいじゃなかったかと思うけれど、彼は別の日に、また東京ジャーミーへ私を引っ張って行ったことがあります。

なんでも、ジャーミー(モスク)のイマームさんに折り入って頼みがあるとのことでした。 

イマームというのは、モスクにおける礼拝等の宗教行事を司り、言わばお寺の住職さんや教会の神父さんのような存在ですが、イスラム教では聖職者階級が認められていないこともあり、日本語には“導師”と訳されたりしています。

トルコにおける各モスクのイマームは、原則的に宗教庁の職員であり、公務員のようなものだから、必ずスーツにネクタイ姿で勤務していて、顎鬚をモジャモジャと蓄えている方もいません。

礼拝等は、その上から法衣を纏って執り行い、政教分離に基づいた説教を行なうことになっています。東京ジャーミーのイマームさんも、やはりトルコの宗教庁から派遣された方でした。

ジャーミーでイマームさんの部屋に通されると、知人は以下のような要望をイマームさんに伝えました。

トルコ人の友人が日本人の奥さんとの間に男の子を儲けた後に他界してしまい、男の子は日本でお母さんに育てられているけれど、何らイスラム教徒としての教育が与えられていないばかりか、このままでは年頃になったのに割礼も施されないようだから、何とかしてもらいたい。

イマームさんは静かに知人の話を聞いた後で、まず、その男の子が今後も日本で生活して行くことを確認してから、次のように答えました。

「その子は日本人として育つことになるんですね。それを私たちが無理してムスリムにさせることが、その子の幸せになりますか? 良くお考えになって下さい。私たちは遠くからその子の成長を見守ってあげれば良いのではないでしょうか?」。

穏やかに知人の理解を求めるような口調でした。

まあ、海外へ派遣されるくらいだから、そもそもが極めて見識の高いイマームさんではあったのだろうけれど、その誠実な対応に私は甚く感動しました。