メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

羊頭の丸焼き

未だトルコへやって来る前のこと。各国の風物を現地でリポーターが紹介するテレビ番組を見ていたら、訪れたトルコ人家庭の食卓に“こんがり焼けた羊の頭”が丸ごと一つドンと供されていて“ギョッとする”というシーンが出てきました。

モダンで裕福そうなこの家庭の御主人が説明するところによれば、トルコでは大切なお客さんをもてなす場合、羊の頭の中でも先ずは目玉から召し上がって頂くのだとか。まあ、16年ぐらい前に一度観ただけの番組だから、その他の内容は全く覚えていないあやふやな記憶だけれども、食卓の場面だけは印象に残っています。

それで、91年にトルコへやって来て、イズミルトルコ語学校で勉強し始めてから、『早くああやって羊の頭から目ん玉を刳り貫いて食べて見たいものだ』と思い、ある日の授業で美人講師のファトシュさんに尋ねてみたところ、彼女は「それって本当にトルコの話ですか? 私はそんなもの見たことすらありません」と顔を顰めて見せました。確かに、イズミルにいた時は、あまり方々出歩かなかった所為かもしれませんが、レストランなどで“羊の頭”を見ることはなかったのです。

一年が過ぎて、イスタンブールへ出て来た後、レストランや肉屋の店先で“焼けた羊の頭”が並んでいるのを時々見かけるようになったけれど、その頃には“羊の頭”に対する熱い思いも冷めてしまい、これを実際に食べて見たのは大分経ってからのことでした。

それに、レストランでは、“羊の頭”と注文しても、皿に載って出て来るのは、きれいに切り分けられたものだから、それほどエキサイティングな場面にはなりません。

味の方は、タンとか脳みそがなかなか美味しいものの、肝心の目ん玉はただ脂っこいだけで特別な風味もなく、わざわざ大切なお客さんに勧める味覚でもないように思えます。そもそも、この話、私は未だにトルコの人から聞いたことがありません。