メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

アンカラ/タクシーで運転手さんと雑談

アンカラではアタトュルク廟へ登ると、市内はもちろんのこと周辺の荒涼とした大地も見渡せてなかなか感動的です。

今回はその光景も写真に収めようと思い、夕闇がせまる前に登らなければとクズライでタクシーへ乗り込んだところ、「アタトュルク廟ですか? 今から行ったのではもう中へ入れないかもしれませんよ。それでも構いませんか?」と運転手さん。それでも、「まあ、とにかく行って見ましょう」と運転手さんを促して出発したのですが、いくらも走らない内に夕方のラッシュへ巻き込まれ、渋滞の中で車は遅々として進みません。

こうなっては焦っても仕方がないので運転手さんと雑談を始めたら、この運転手さん日本については並々ならぬ関心があるらしく、結構話が盛り上がってきたところで車はアタトュルク廟の前に到着したものの、案の定、廟への参詣時間は既に終わっています。クズライへ引き返すつもりなら、もう急ぐ必要もないので、そこで車を降りてしまっても良かったけれど、せっかく盛り上がっていた話を打ち切るのも何だから、「何処か市内を見渡せるような高台は他にありませんか?」と訊けば、なんでもケチオレンという地区に昨年建てられた城が新しい観光名所になっていると言うので、そこまで雑談を続行させることにしました。

さて、私がトルコの人たちと日本について雑談する際、よく使う詰まらない例え話があって、この時も同じネタを懲りずに繰り返していますが、それは次のようなものです。

「例えば貴方が、2年ぶりに韓国へ、平日の午後3時頃に到着する飛行機で訪れることになったとしますね。これを前以って親しい韓国の友人に伝えて置けば、その友人は必ず貴方を空港まで出迎えに来ますよ。そして貴方を自分の家に連れて行くでしょう。ところが、同じ条件で日本へ行くことになって、同様に日本の友人へ連絡したならば、彼はきっとこう言うでしょうね。『何処のホテルに泊まるの? 仕事が終わったら寄るから一緒に晩飯でも食べよう』」。

この話を終わりまで聞いてくれた運転手さんの反応はなかなか興味深いものでした。彼はちょっと苦笑いしてから、「我々トルコ人も韓国人と同じように空港まで出迎えに行くでしょうね。もちろん、貴方が何を言いたいのかは解りますよ。職場を離れて空港まで行ってしまうわけですから。でも、そんな話を聞いたらトルコが今のままであっても良いような気もしてきましたねえ。適当に仕事して、友人たちとの時間を大切にする。経済的に発展するより、私にとってはこの方が良いかもしれません」というようなことを話してくれたのです。

さらに私が、「この話も18年前だったら、ある程度通用しただろうけれど、今は韓国の人たちもそこまでしてくれないかもしれませんね。トルコだって、第一線で働いているような人たちはもうそんなことしていないと思いますよ」なんて生意気にも分かったようなことを言ったら、「確かにそうです。トルコもこの10年ぐらいで大分変わりました。これからどうなるんでしょうね」としんみりした口調になってしまいました。

それから、教育の問題に話が及んだので、「かつて日本はヨーロッパのように初等教育の段階で進路を決めて分けたりしなかったことが良かったのではないか、今ではこれも随分怪しくなって来ているけれど」というように説明したところ、運転手さんはこれを意外に感じたらしく、少し驚いた様子で、「そうでしょうか? 私はヨーロッパのように早くから方向付けする教育制度をトルコにも導入すべきだと考えていました」と言うのです。

ホワイトカラーに属する人ならともかく、タクシーの運転手さんからこういう意見を聞いて、私も驚きました。運転手さんは自分の子供について、「倅は英語が良く出来るから、大学へ行ったら日本語も習えば良いと思ってそう勧めたら、本人はスペイン語をやるつもりでいて、『そんなに日本が気になるなら自分で勉強すれば良いでしょう』なんて言うんだよね」と語っていたから、どうやら子供の方は進学コースを歩んでいるようだけれど、もっと早い段階で“方向付け”されていたら、『どうなっていただろうか?』とは考えてみないのでしょうか?

もちろん、私には教育制度の良し悪しなど何一つ解っていないけれど、この運転手さんの意見は色々な意味でとても興味深いものに思えました。