メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

宇宙基地のタクシー?

私が働いている工場では、自動車用組電線を生産している、と言ったところでこれが一体何なのかは業界の人でもなければ分からないだろう。で、どんなものであるのか説明しようとしても、これがまた簡単には行きそうもない。

とにかく自動車の部品を作っていて、この分野においては世界で2割以上のシェアを占めているという。もちろん工場はトルコばかりでなく世界の至る所にある。

この自動車用組電線の製造工程には自動化が困難な部分もあり、どこの工場でもある程度は手作業に頼らざるを得ない。

その為、現場サイドの改善活動には作業者の積極的な参加が不可欠であり、QCサークル活動にかなり力を入れている。年に一度、世界各地域から選ばれた代表チームの参加によるQCサークル大会も日本で実施されている。

しかし、残念ながらトルコの工場から、この大会への参加は未だない。それでも、例年、見学という名目で何名かが日本へ派遣されていた。

派遣された人たちのレポートを読んで見ると、大会での見聞はもちろん、初めて行った日本で驚いたことなどが書かれていて、なかなか面白いものがある。

その中に、「宇宙基地に出て来るようなタクシー」なんて表現があったので、私はまた、最近日本で何か特殊な形のタクシーでも出現したのかと思い、本人に確かめてみたところ、何のことはない、自動ドアとカーナビに驚いただけらしい。

どうも、トルコの人達には一般的に大袈裟な表現を好む傾向がある。この他にも、「整然とした街路には塵ひとつ無く」とか「この街では違法駐車されている車を一台も見なかった」というように書かれていて、これには読んでいる私も驚いた。

「一台も見なかったというのは、ちょっとオーバーなんじゃないの?」

「いや、本当です。だいたい路上には殆ど車が止まっていませんでした」

これは、どうやら沼津市の路上であるようだが、多分イスタンブールの余りにもひどい違法駐車を見なれている所為で、一区画に3台ぐらいまでなら目には入らなかったのかも知れない。

しかし、QCサークル大会が大阪で開かれていなかったのは幸いだった。彼が大阪へ行っていたなら、「日本では土地が狭いので、空間を有効に利用するため、路上でも3重に駐車することになっているようだ」なんて書かれてしまっただろう。

さて、日本へ行けるのはQCサークル大会ばかりではない。マサルさんは研修で3ヶ月ほど浜名湖に滞在したそうである。

その滞在期間中、研修地の近くで電車に乗ったところ、女子高生に英語で話しかけられたという。

その頃、彼はまだ日本語が殆ど解らなかったので、英語での会話に喜び、「これから毎日、私はあなたに英語を教えますから、あなたは私に日本語を教えてくれませんか?」と提案して、連絡先の書かれた紙を彼女に渡そうとすると、彼女は何も言わぬまま逃げるようにその場から離れてしまったという。

「私はその時、彼女が何故逃げてしまったのか解らず、とにかく驚いてしまったのですが、後になって、日本ではそういう提案が何かとんでもない誤解を生むことになると聞きました。いったい彼女はその時何と思ったのでしょうか?」

それで私は正直に、

「そりゃ、もちろん助平な外人に誘われたと思ったに違いありません」

マサルさんは真っ赤になって、

「何と恐ろしいことでしょう。それはとんでもない誤解です」と声を震わせていた。

しかし、浜名湖辺りの女子高生が、すれっからしでなかったのは、本当に良かったと感謝しなければならない。もしも、これが渋谷のコギャルだったら、ひとりの純粋で敬虔なムスリムの一生が滅茶苦茶にされてしまうところだった。