メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

ユダヤ人の強い意志は何に由来するのだろう?

おそらく30年以上前、友人から伝え聞いた話。日本に滞在しているイスラエル若い女性が本を読みながら涙を流していたので、友人が何を読んでいるのか訊くと、それは「旧約聖書」だったそうである。

何の信仰も持たない私は、「宗教的な熱情によって突き動かされる人」など、何処の社会でも少数者に過ぎないのではないかと思っていたけれど、イスラエルではその割合が結構高いのかもしれない。

さもなければ、世界中から非難されても、パレスチナの土地を侵食し続けて来た「熱情」を理解するのは、ちょっと難しいような気もする。彼らにとって、パレスチナは神により約束された地であるという。

やはり、新約も含めて聖書には、人を感嘆させる力が潜んでいるのだろうか? 今回のガザ攻撃でも、何らかの信仰によって支えられた強い意志の存在が感じられてしまう。

ユダヤの人々は、旧約聖書の信仰によって結束を固め、長い流浪の歴史を生き抜いて来たと言われている。今でも世界の様々な地域にユダヤ人のコミュニティーがあり、その流浪の歴史を偲ばせている。

トルコにも1万5千~2万人ほどのユダヤ人がトルコ国民として暮らしているそうだ。彼らの多くは、15世紀のレコンキスタにより、イベリア半島を追われて来たセファルディ系の子孫であるという。

なんと長い流浪の末にアナトリアへ辿り着いたのか・・・。

オスマン帝国末期の1914年に行われた人口調査の記録を見ると、コンスタンティニイェ(現在のイスタンブール)におけるユダヤ人の人口は5万2千人となっているから、およそ100年を経て半数以下にまで減少したらしい。イスラエルの建国によって移住した人たちもかなりいたに違いない。

イズミルで、私と同年配のトルコ人の靴加工業者から聞いた話では、彼が子供の頃、周囲には未だ多くのユダヤ人靴加工業者がいたのに、それがいつの間にかいなくなってしまったという。

「多分、イスラエルへ移住したのだろう。私たちトルコ人の業者と同様、それほど暮らし向きの良い人たちではなかった」と回想していた。おそらく、1960年代末のことだったのではないかと思う。

イスタンブールに居た頃は、イースターやクリスマスといったキリスト教徒の祝祭に、各宗派の教会でミサを見学したりしたけれど、シナゴーグユダヤ教の礼拝を見る機会はなかった。何人か集まって、事前に許可を取れば、見学できないこともないそうだが、オープンに歓迎してくれた各教会やイスラムのモスクとは比べ物にならない閉鎖的な雰囲気が感じられた。

1991年、私はイズミル学生寮でトルコ暮らしの第一歩を踏み出したが、この学生寮は夏休みになると、帰省しない学生たちを一部屋に集めて、他の部屋はツーリスト用の安宿に様変わりした。

その「安宿」にイスラエル人ツーリストのグループが数日泊まって行ったことがある。

彼らは結構厳格なユダヤ教徒だったのか、食器まで自分たちで持ち込み、キッチンを占拠して長い時間かけて食事を用意していた。他のツーリストが待っていても、一向に気にする様子もなかった。

私はそれを見て、何故、彼らが世界中で差別されているのか解るような気がした。

コーシェルによる飲食の禁忌や様々な教義上の規則を守ろうとしたら、自分たちのコミュニティーで結束して他者を寄せ付けない生活を送らなければならないだろう。

そのため、各地でユダヤ人のゲットーが形成されたようである。

しかし、ユダヤの人たちが人類の歴史に残した足跡には、差別や対立・闘争といった負の面よりも、文明・文化に与えた多大な貢献の方が目立っているような気もする。

ユダヤ人は平均的なIQが他の民族に比して著しく高いらしい。

おそらく、長い歴史の中で、弱い人たちはキリスト教イスラムに改宗するなどして「ユダヤ人」であることを放棄してしまったのだろう。

能力のある人たちだけが「ユダヤ人」として生き残ったのではないかと思う。(同様のことはアルメニア人についても考えられる)

ノーベル科学三賞受賞者の20%はユダヤ人であるという。これだけでも、「多大な貢献」と言えるのではないか?

ユダヤ人の活躍は、科学技術や経済の分野に限らない。文学、音楽、映画等々の芸術により、どれほど我々の生活を豊かにしてくれただろう。

考えて見ると、ユダヤ人の長い流浪の歴史は、それ自体が壮大な芸術作品であるかのように思えてしまう。

そこには、もちろん、差別や対立、戦争、虐殺といった悲劇的な要素も含まれているのだろうけれど、悲劇がなければ芸術など成り立たなかったかもしれない。

しかし、それが現実として、私たちが生きている時代に起こった場合、それは恐ろしい野蛮な行為であるとしか言えなくなってしまう。

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