メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

BRICS は「車が馬の前を走っている馬車」?

BRICSサウジアラビアなど新たに6か国が加盟したのは、トルコでも大きな話題となっている。

トルコは長い間、EUへの加盟交渉で門前に立たされたまま、疎外感を味わって来たため、BRICSの拡大に期待する向きもあるようだが、8月29日付けサバー紙のコラムで政治学者のハサン・バスリ・ヤルチュン氏は、BRICSを「車が馬の前を走っている馬車」に例えて、過度の期待を戒めていた。

ヤルチュン氏によれば、BRICSは「まず名前が付けられ、その後に政治的な事実へ結び付けようとする努力が現れた。一種の無理強いによる共同プロジェクトのように見える」という。

つまり、「各国家が自分たちの政治的・経済的な利益のために組織を作ろうとすれば、その組織は機能する。しかし、まず組織を作って、後から共同を図ろうとするのであれば、その組織は機能しない」というのである。

ヤルチュン氏は、BRICSが提唱してきた「ドル支配からの離脱」も、結局、何の進展さえ見せていないと指摘している。

エルドアン大統領は、2022年の9月、上海協力機構の首脳会議に臨席して「加盟を目標とする」などと発言していたけれど、今のところ、NATOから離脱する気配は全くない。

上海協力機構と共に、BRICSへも接近する姿勢を見せていたが、2023年6月の大統領選挙を乗り越えると、欧米の経済基準を重視するシムシェク氏を財務相に任命して、BRICS支持派を落胆させている。

今から思えば、「加盟を目標とする」は、上海協力機構首脳らへの単なるリップサービスであり、BRICSに対する態度も、国内の支持派への配慮だったような気もする。

一方、8月30日の日本経済新聞には、「BRICS『恨み』が共通軸」という論説が掲載されていた。筆者はジャナン・ガネシュというインド系あるいはパキスタン系と思われる英国人だが、とても解りやすく納得が行く内容だった。

「恨み」とは「西側の優位に対する怒り、過去の屈辱に対する鬱憤だ」と説明されているけれど、以下の駄文で紹介したパキスタンの物理学者フッドボーイ氏の論説にも類似する見解が述べられている。

ガネシュ氏の論説にある「恨み」と「憎しみ」の比較も非常に興味深い。

「恨みは憎しみと同じではない。憎む人は、憎しみの対象と一切関わりを持ちたくない(国際テロ組織アルカイダの西側に対する態度を思い浮かべるといい)。対照的に恨む人は恨んでいる対象に半ば興味を持っている。・・・」

それから、私にはサウジアラビアなどのイスラム諸国が大挙してBRICSへ加盟した背景には、「恨み」と共に「恐怖」もあるように思われてならない。

米国はウクライナ戦争でロシアを崩壊させようと躍起になっているけれど、ロシアが崩壊してしまえば、その次のターゲットは中国、そしてイスラム諸国であるかもしれない。

そのため、中国はロシアと同盟を結ばないまでも、「崩壊させないための援助」は続けるのではないだろうか?

トルコには、「EUキリスト教のクラブだから決してトルコを加盟させない」と主張する人も少なくない。

もっとも、今、ターゲットにされているロシアはキリスト教の国だが、ロシアに対して結束を固めようとしているNATOも、トルコを除けば、ほぼキリスト教のクラブと言って良さそうである。

ウクライナ戦争では、ヨーロッパも疲弊し困難な状況に陥っているものの、そのために「米国への依存度」は高まるので、米国にとっては願ったり叶ったりじゃないかとヤルチュン氏は論じていた。

こうして、米国はまず最も近しい身内を結束させて支配下に置いてから、目障りな連中を次々と弱体化させていくつもりらしい。

ところで、日本は米国にとって、どの程度の近さの身内なんだろうか?