メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

韓国と北朝鮮の「愛国歌」

20年ぐらい前だったと思う。日本で開催された冬季競技の国際大会で、優勝した韓国の選手が表彰台に上がったところ、手違いで北朝鮮の「愛国歌」が流れるという事件があった。

日本の関係者は、「韓国の国歌も曲名は同じ『愛国歌』なので間違えてしまった」と弁明に努めたが、韓国側はこれに納得せず、「我が国ならそういうミスもあるだろう。しかし、日本の人たちは決してそういうミスを犯さない。あれはわざとやったに違いない!」と凄まじい勢いで抗議した。

確かに、20~30年前の日本では、電車の発着等々、あらゆることが正確に進められ、些細なミスも余りなかったような気がする。ところが、最近の日本はそうでもなくなって来たかもしれない。

一方、韓国では、20年前でも「ケンチャナヨ(構いませんよ)」という大雑把さが揶揄されたりしていた。私は、かえってその大雑把で豪胆なところが好きだったものの、最近は、かなり細かい規則にもうるさくなって来たそうである。

「愛国歌」の手違いがまた起きてしまったら、今の韓国の人たちは何と言うだろう? 「日本にはそういうミスも多いから」と言って勘弁してくれるだろうか? 勘弁してくれたら、もっと辛くなるような気もするけれど・・・。

いずれにせよ、「愛国歌」は双方とも、各国国歌の中で際立つ名曲じゃないかと思う。

しかし、いつだったか、朝鮮高校出身の友人の前で、「아침은 빛나라 이 강산~♪(朝に輝くこの山河~♪)」と愛国歌の出だしを歌って見せたところ、「何、それ?」と訊かれて驚いた。

朝鮮語も殆ど話せなかったくらいだから、不良学生で授業なんて余り聞いていなかったのかと思ったが、聞くところによると、本国の北朝鮮でも、式典などで歌われるのは「将軍様」を称える歌ばかりで、「愛国歌」は、もう随分前からインストルメンタルで流されるだけらしい。

「愛国歌」を聴くと、独立して国家建設に臨む意気込みが伝わって来るようで感動する。建国当初は、共産主義の理想に燃える人たちも多かったに違いない。それがいつの間にか「将軍様」の国になってしまったようだ。

もちろん、韓国では「愛国歌」が今でも愛され歌われ続けているのではないかと思う。

どちらの「愛国歌」が好きかと問われたら、やはり韓国の「愛国歌」と答える。

北朝鮮の「愛国歌」のような派手さには欠けるものの、穏やかでしみじみとした美しさが感じられる。

歌詞も味わい深い。私は今でも一番だけなら空で歌うことができる。

最後の「괴로우나 즐거우나 나라 사랑하세~♪(辛くとも楽しくとも国を愛さん~♪)」というフレーズが泣かせるけれど、何だか将来は、日本の国歌にこそ、そういう文句を入れなければならなくなってしまうのではないかと思えて悲しい。