メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

「イズミルの冬の思い出」

《2007年2月10日付け記事を省略修正して再録》

1991年に初めてトルコへやってきて、温暖なエーゲ海地方のイズミルで一年を過ごしたけれど、冬は結構寒かった。温暖なイズミルでは、冬の備えが甘く、寝起きしていた学生寮の暖房も粗末なものだったからだ。

2段ベッドを3つ並べた寮の6人部屋には、電熱線がむき出しになっているヒーターが1つだけ置かれていた。我々寮生は、寒い夜に、そのヒーターでインスタントのスープを作ったりした。

トルコのスーパーでも売っているクノールの野菜スープやチキン・スープの素を適当に混ぜ合わせて鍋に入れ、ヒーターの上でゆっくり煮立たせれば、美味しいスープが出来上がる。

それを、銘々がスプーンを持ってヒーターの周りに集まり、鍋から直に掬って飲むのである。皆、一様に背を丸めながら鍋に向かい、「寒い冬には暖かいスープが一番だね」とか「今日は野菜スープの素を入れなかったんじゃないのか? やっぱり何種類か混ぜた方が美味しくなるよ」などと年寄りくさい会話を交わした。

電熱線むき出しのヒーターは寒かったけれど、そうやって鍋を囲むと、実に暖かな雰囲気が醸し出され、その和やかさは忘れ難い思い出となっている。

しかし、この電熱線むき出しヒーターのお陰で危うく火事になりかけたこともあった。

ある晩、真中のベッドの下段に寝ていた私がふと目を覚ますと、隣のベッドの枕元がボオッと明るくなっている。寝ぼけ眼で『何だろう?』と思いながら見ているうちに、『あっ! いかん。何かが燃えている』と気がつき、ベッドから飛び起きて良く見たら、ヒーターの上で下着のシャツが一枚燃えているのである。

私はすかさず近くにあった棒切れで燃えているシャツをすくい上げ、「ヤングン(火事)! ヤングン!」と叫びながら、そのまま部屋を出てシャワー室へ直行し、燃えるシャツに水を掛けて火を消しとめた。

それから、『我ながら実に適切な処置であった』と意気揚々に部屋へ引き上げたところ、部屋の連中も皆起き上がっていて、「おい、マコトが叫んでいるの聞いたかよ。『ヤングン! ヤングン!』。ヤングンだなんて可笑しいったらありゃしない」などと失礼なことを話している。

「だってあれは、ヤングン(火事)だろ?」と言い返しても、「あれがヤングン(火事)なものか。シャツが一枚燃えていただけじゃないか」と皆して愉快そうに笑うばかりだった。

この連中、震度2ぐらいの僅かな揺れでも、大騒ぎして外へ飛び出すくせに、本当の危機に際しては至って平然としていた。

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