メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

女性に甘いエルドアン大統領は女性差別主義者なのか?

2018年だったと思う。YouTubeで視聴していたトルコのニュース番組に、エルドアン大統領も参席した式典の模様が映し出された。エルドアン大統領は隣に立っている小柄な老婦人に、身を屈めるようにしながら何か話し掛けている。

最初は、そのモダンな服装の老婦人が誰であるのか解らなかったものの、しばらく観ている内に気がついた。タンス・チルレル元首相だった。

その頃、もう70歳以上になっていただろう。首相在任時は47~50歳で、トルコ人女性としては非常に若く見えたけれど、さすがに大分年を取ったように感じられた。しかし、誰だか解らなくなってしまうほどではない。相変わらず年の割には若作りである。

チルレル氏は、2002年の選挙で正道党が議席を失うと、党首を辞任して、長い間公の場には余り姿を現していなかったと思う。それが、この3年ぐらいは頻繁に現れて、エルドアン大統領らと親しげに懇談したりしているので、「政界への復帰」も取り沙汰されたようだ。

首相在任当時は、若く見えるだけではなく、なかなか美人だった。「世界で最もチャーミングなリーダー」と言って良かったかもしれない。そのため、ビーチでの水着姿がパパラッチされたりもした。

あるジャーナリストの回想によると、チルレル首相の女性警護官が首相の直ぐ後ろにぴったりついて警護しているのが、そのジャーナリストには不可解だったという。

何故なら、通常、警護官は如何なる事態にも対応できるよう、少し距離を置いて四方に目を光らせているらしい。

ジャーナリストは、後にその女性警護官に取材する機会を得たので、ぴったりついていた理由を訊いてみたところ、「首相のお尻を触ろうとする不届きな男が余りにも多かったため」と答えたそうである。

何の話をしているのか解らなくなってしまったが、エルドアン大統領は、チルレル氏を非常に丁重に遇している。チルレル氏に限らず、年長の女性に対してはいつも丁重である。それはトルコの伝統に基づいているのだろう。

一方、エルドアン大統領は、「独裁者」などと揶揄されるだけあって、男にはなかなか厳しいらしい。2006年頃だったか、新聞に「エルドアン内閣の夏季キャンプ」といった記事が出ていた。肥満体を嫌うエルドアン首相(当時)が閣僚らに夏季キャンプを課して鍛えさせているというのである。記事には、数人の閣僚を以前の状態と比較した写真もあり、「こんなに痩せた!」なんて記されていた。

ところで、その頃のエルドアン内閣にはギュルダル・アクシット氏という女性の閣僚もいた。アクシット氏は女性・家族問題担当相などを歴任していたが、「体重問題担当相ではないのか?」と揶揄したくなるほどの立派な肥満体だった。しかし、それは特に問題とならなかったらしい。夏季キャンプにも参加していなかったようだ。エルドアン首相は男の閣僚に厳しくても、女性には甘かったのだろうか?

エルドアン大統領のエミネ夫人は強い女性と言われていて、「大統領は恐妻家」という噂もある。また、4人の子供たちの中でも、特に目立っているのは次女のスメイエ氏で、子息らはどうも影が薄い。どうやら、エルドアン家は「女高男低」のようである。

トルコはクオータ制を採用していないため、数は少ないかもしれないが、現在も大統領府には女性の閣僚やアドバイザーがいる。エルドアン大統領は、そういった実力のある女性に対して敬意を表しているところがうかがえる。決して女性差別主義者などではないはずだ。しかし、性差を強調する発言で度々批判されている。おそらく、性差を認めているからこそ、女性に甘かったりするのだろう。

とはいえ、「男と同じように女の肥満体も認めない厳しい指導者」と「女性には甘い指導者」のどちらが好ましいのか世の女性たちに訊いたら、後者と答える女性が多いような気もする。