メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

開明的なイスラムの先生たち

2004年の3月、南東部のビトゥリス県で、妻子ある従兄と不倫して妊娠した未婚の女性が、部族社会の掟に従った実の弟に撃ち殺されるという衝撃的な事件が報じられた。

しかし、この15年の間にも、産業化・都市化がさらに進んだトルコでは、部族社会の解体も加速化され、こういった「名誉の殺人」などと言われる事件はかなり減って来たのではないかと思う。

「名誉の殺人」は、パキスタンでも多発していたため、「イスラムの危険性」と共に語られたりしているけれど、イスラム教徒以外の間でも行われており、地域の因習によるものだという説が有力であるらしい。

上記のビトゥリス県の事件では、以前、村のイマームイスラム教導師)を務めていたジェイラン氏が、イスタンブールで女性を部族から守ろうと尽力したそうである。

「ジェイラン氏は、あの地域の風習による掟を知っていたから緊張していたが、ギュルドュンヤ(殺された女性)を我が子と同じように扱った」と記されている。

トルコのイマームイスラム教導師)の大部分は、宗務庁の職員であり、大学の神学部で学んだ人も多い。卒業した大学のレベルにもよるが、教養のあるイマームや宗教科の先生は、部族社会の影響が残っているような地方の農村で、啓蒙的な役割を果たしていたりする。

それこそ一流大学の神学部を出た人たちは非常に開明的で、生半可な政教分離主義者などより、かえって気兼ねなく宗教の問題を話し合える。

いつだったか、ボスポラス海峡を横断する連絡船の中で、高校の先生たちに声を掛けられた。かなりレベルの高い高校なのだろう、皆、モダンで洗練された雰囲気の先生たちだった。

中でも、30代半ばぐらいの男の先生は日本の文化にも詳しく、「日本人の多くは宗教なんて信じていないそうですねえ」なんて言うものだから、私も調子に乗って、「もちろん信じていません」とざっくばらんに宗教観を披露していると、連絡船がアジア側に着いてしまったので、お別れの挨拶をしながら、「貴方は何科の先生なんですか?」と訊いたところ、彼は「宗教科です」と答えて、「ハハハハ」と笑ったのである。

固く握手して別れたけれど、私は自分が話したことを思い返して少なからずうろたえていた。

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