メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

やくざの縄張り争い

ベルギーの爆弾テロの後、トルコでは、1996年の1月にイスタンブールで起きた暗殺事件が少し話題になっていた。
それは、トルコで最も大きな財閥の一つに数えられるサバンジュ財閥のオズデミル・サバンジュ氏が、白昼、執務中に射殺された事件である。
容疑者の一人フェフリイェ・エルダル(女性)は、1999年、逃亡先のベルギーで偽造パスポートを所持していたために拘束されたが、1年後に釈放され、トルコ政府の度重なる返還要求にも拘わらず、未だにベルギーで自由に暮らしているらしい。
極左武装組織の一員だったフェフリイェ・エルダルが、サバンジュ・センタービルの内部へ入ることが出来たのは、当時、様々な謀略事件に関わっていたと言われる警察幹部ヒュセイン・コジャダ―(謎の交通事故により死亡)の口利きにより、ビルの清掃員として職を得ていたからだと明らかにされている。
そして、エルダルは共謀者2人をビル内に引き入れ、犯行に及んだ。
その為これも、当時、相次いでいたトルコ国内の政治的な謀略事件の一つではないかと囁かれていた。3人の実行犯は、財閥の総帥サークプ・サバンジュ氏らが集まる会議を狙っていたものの、誤った情報により目的を果たせなかったという説もある。
しかし、結果的に射殺されたのはオズデミル・サバンジュ氏、そしてトヨタとの合弁企業の社長ハールク・ギョルギュン氏とその秘書だったため、様々な噂話が出回っている。
例えば、日本企業の誘致に熱心なサバンジュ財閥に苛立っていた欧州が、極左組織を唆して犯行に及ばせた・・・だから、容疑者を返還しないのである・・・等々。
いずれも、よくある陰謀説に過ぎないけれど、3年前、英国のサッチャー元首相が亡くなった際に、中曽根康弘元首相が語った追想という記事を読んだら、なんだか『ふーむ』と唸らされてしまった。
サミットの会議が始まるのを待っていた中曽根首相のもとへサッチャー氏が近づき、トルコの橋梁工事を日本の企業が受注した件について、「あれは欧州の企業が取るべき範囲である」と耳打ちしたそうだ。 

(記事で“ダーダネルス”となっている海峡は、“ボスポラス海峡”のはずであり、こういう些細なこともトルコ・オタクにとっては悲しい。)

これをトルコの人たちに話すと、「やっぱり欧州は、トルコを自分たちの植民地と考えているんだな」と納得顔で頷いたりするけれど、まるで「やくざの縄張り争い」みたいな感じがして、私も随分酷い話だと思った。「うちのシマを荒らすんじゃねえ!」と啖呵を切った女親分といったところじゃないだろうか。

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