メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

国民に我慢を強要できる国・できない国/トルコのNATO問題

米国はロシアを内部から揺さぶるために、プーチン氏に対するネガティブキャンペーンを展開しているようだけれど、これにどれほどの効果が期待できるだろう?

選挙を実施していない中国よりは多少期待できるのかもしれないが、ロシアの選挙は余り公正とは言えないような気もする。

大統領選挙におけるプーチン氏の8割近い得票率など、いったいどうやって信じられるのか?

プーチン氏と共に「独裁者」などと揶揄されているトルコのエルドアン氏とAKP政権は、2002年以来、重要な選挙を勝ち続けて政権を維持して来たものの、最高の得票率はエルドアン氏が大統領選挙で得た52%に過ぎなかった。

米国のバイデン大統領が「クーデターで倒せなかったエルドアンを選挙で倒すためにトルコの野党を支援する」と発言したことが問題になっていたけれど、来年の大統領選挙もエルドアン氏にとって非常に厳しいものになりそうだ。

現在、トルコでは、スウェーデンフィンランドNATO加盟をエルドアン大統領が拒否したことが、もちろん大きな話題になっている。

また、拒否の問題が生じる前、それに至ったスウェーデンの加盟申請を疑問視する識者も少なくなかった。

「ロシアと長い国境線を有するフィンランドの立場は理解できるが、歴史上如何なる危機的な状況でも中立を保って来たスウェーデンが何故加盟を申請しているのか?」というのである。

そのため、「背後で米国が加盟申請するよう圧力を加えていたのではないか?」と論じる識者もいて、エルドアン大統領の「拒否」はスウェーデンではなく米国に向けられたものだと説明されている。

そもそも、拒否の理由として掲げられた「テロ組織への支援」で米国に勝る国など何処にも存在していないのである。

一方、ジャーナリストのアルダン・ゼンテュルク氏は自身のユーチューブチャンネルで、「エルドアン大統領の拒否に米国が厳しい反応を見せていないのは、それが愛国的なトルコ人らの反発を招き、来年の選挙でエルドアン氏を有利にさせてしまうからだ」というような説を展開していた。

これはどうなんだろう? トルコで現地の声を聞けるチャンスもないから良く解らないけれど、来年の選挙で争点となるのは「経済の低迷」や「難民問題」であって、2016年7月のクーデター事件の際に感じられた愛国的な雰囲気は大分薄れてしまったようにも思える。

ロシアは、いざとなれば国民へ我慢を強要できるかもしれないが、トルコはそういう国じゃない。スウェーデンはもちろん、西欧各国もそうだろう。国民へ我慢を強要したら次の選挙に勝てなくなってしまう。

しかし、この国々に比べたら、トルコには未だ愛国的な精神が作用する余地が残っているような気もする。米国等の外国が支援するテロ組織との戦いが絶えなかった数十年来の記憶がそうさせるのではないかと思う。

イスタンブール・カドゥキョイ(2016年夏)