メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

トルコはISから石油を買っているのか?

ネットで視聴できる24TVというAKP政権寄り放送の番組に、ハリル・ベルクタイという歴史学者が定期的に出演して、女性キャスターの質問に答えている。
10月頃だったか、たまたま番組を観て、ベルクタイ氏の縦横無尽な論説に引き込まれ、以来、なるべく時間を合わせて観るようにしている。
当初は、ベルクタイ氏が如何なる人物なのか、それさえ良く解っていなかった。AKPを「アー・カー・ペー」と発音して呼ぶのだから、根っからのAKP支持者ではないだろうとか、その程度のことを考えていた。(支持者は「アク・パルティ」と呼ぶ)
ベルクタイ氏は、1947年生まれの歴史学者で、経済学にも造詣が深く、トルコ民族主義史、アタテュルク主義といった分野では、泰斗と言える存在らしい。“ハリル・ベルクタイ”と日本語で検索してみたら、2007年に拙訳した記事が出て来た。
アルメニア問題では、公式見解と異なる発言を試みて、酷い目に合わされたこともあるそうだ。
まあ、私は日本の著名な学者の名を言われても解らなかったりするのだから、驚く必要もないが、記事を訳した際に、知らない人名は相当調べ込んでいたはずである。それが頭の片隅にも残っていなかったとは情けなくなる。
さて、先週の番組で、ベルクタイ氏は、「ISからトルコが石油を買っている」というロシアの主張には根拠がないとして、次のように説明していた。
「今日、トルコが1日当たり消費している石油は72万バレルに及んでいる。ISの支配下における1日当たりの原油産出量は、3万4千バレルぐらいである。・・・・ロシアの主張が嘘だと言う前に、何故、最も解りやすい論拠を示そうとしないのか・・・」
ベルクタイ氏によれば、トルコの南東部で、シリアから密輸業者によって持ち込まれた石油がいくらか消費されているのは、ISなど登場する前からの話で、大袈裟に論じるまでもないそうである。確かに、その手の密輸なら、ヘロインやコカインでさえ世界の至る所へ持ち込まれているはずだ。「国」などとは次元の異なる話だろう。
この例でも見られるように、ベルクタイ氏は、実際に起きた出来事や現実的な数字を挙げながら、その論説を明らかにしていくので、とても解り易く、説得力を感じてしまう。
これは、過去の事実をもとに論考を重ねる歴史学者の特性なのだろうか? この“通信”で何度も取り上げた歴史学者シュクル・ハニオウル氏の論説も、同様に解り易く、説得力が感じられる。
また、お二人とも、左派アタテュルク主義者という立場から出発された方じゃないかと思うけれど、実際の社会の変化を見極めながら、AKP政権による“現在”にも一定の評価は与えているようだ。これには保守派の論客とも相通じる所があるかもしれない。
一方、トルコに限らず、革新の人たちは、往々にして「実際の社会」ではなく、「望ましい社会」を見ようとする。そのため、革新の人たちが語る“トルコ”は、現実から掛け離れている場合が少なくない。