メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

朝の国から

88年、ソウルでオリンピックが始まる少し前か、あるいは開催期間中だったかもしれない。同じ語学学校に通う、在日韓国人の友人と連れ立ってトクスグン(徳寿宮)公園に行ったら、NHKの取材班が来ていて、何やら撮影の準備をしていた。
ちょっと記憶が怪しいけれど、カメラ等がセットされている脇の芝地に茣蓙が敷かれ、“お花見”のように座り込んだ人たちが、飲食を楽しんでいた。
その中に、派手なチマチョゴリの衣装を纏った30歳ぐらいの女性がいて、一緒に座っている初老の女性と談笑している。距離があって、会話まで聞き取れなかったが、「オモニ(お母さん)」と呼んでいるのを聴いたような記憶がある。
女性は歌手のキム・ヨンジャさんだった。多分、私は良く解っていなかったけれど、友人が「おっ、あれはキム・ヨンジャじゃないか」と教えてくれたのではなかったかと思う。
撮影の準備が整うと、ヨンジャさんは“お母さん”に声を掛けてから茣蓙を離れ、カメラの前に立って、司会者と日本語でやり取りしながら、その場を盛り上げ、最後に“朝の国から”を熱唱した。
“朝の国から”は、オリンピック賛歌になっていたから、さすがに私も良く知っていた。作曲は吉屋潤(よしや・じゅん/キル・オギュン)、この方の人生も凄い。
以来、この歌がもっと好きになったし、ヨンジャさんとは話したわけじゃないが、カメラが回っていない所で、周りの人たちと接している様子を見ていると、気取らない自然な雰囲気が感じられ、とても良い印象を受けた。
昨年の暮れ、突然、この歌が聴きたくなり、“YouTube”で以下のクリップを見つけて、耳を傾けたら、何だか25年前のソウルの日々を思い出して、目頭が熱くなってしまった。
それから、他の歌も聴いたりしていて「キムヨンジャ 歌とトーク」というクリップが目についたので、ちょっと聞いてみたところ、「パワーがついたのは、15歳の時から、キャバレーで歌ったりしたが、お客さんが大酒飲んで騒がしくしているのに、負けないよう声を張り上げたので・・・」なんて、あっけらかんと楽しそうに話している。
とても辛く悲しい記憶であるはずだけれど、それを率直に楽しそうに話してしまう。もの凄い人だと思った。
キム・ヨンジャさんは、今年も新曲を出して、元気一杯に頑張っているようだ。いろいろ難しいことなど考えなくても、キム・ヨンジャさんみたいな人が千人もいれば、日本と韓国の間の問題なんて、たちどころに解決してしまいそうな気がする。


朝の国から ~キム・ヨンジャ (紅白歌合戦から)

 
キムヨンジャ 歌とトーク集06 演歌百撰